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最終更新日:2024年05月23日

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Taylorの寿命方程式の係数を求める方法(計算機能あり)

Taylor(テイラー)の寿命方程式を使うと,切削速度と工具寿命(時間)の関係から,加工条件を設定できることになっています.
多くの本に,Taylorの寿命方程式の説明は記載されていますが,実際に使おうとしたときにはどうすればいいのかは書かれていないです.
そこで,Taylorの寿命方程式の係数を求める方法を調べてわかったことについて,ここに書きます.

まずは,多くの本に記載されている範囲のことについて触れます. Taylorの寿命方程式を示します.

\( C = VT^{n} \)
\( C \): 定数
\( V \): 切削速度 (m/min)
\( T \): 工具寿命(min)
\( n \): 係数

ここで両辺で対数を取ると,
\( \log(C) = \log(VT^{n}) \)
\( \log(C) = \log(V) + \log(T^{n}) \)
\( \log(C) = \log(V) + n\log(T) \)
\( \log(V) = -n\log(T) + \log(C) \)
のように式変形ができます.
Taylorの寿命方程式で使う両対数グラフは,縦軸(y軸)が切削速度,横軸(x軸)が工具寿命なので,
\( y = -nx + \beta \)
として解釈すれば,一次関数として理解できます.
そのため,実際に測定した切削速度と工具寿命の値で対数を取って両対数グラフを作成すると,一次関数の係数としてnとCを求めることができます.
nは両対数グラフ上でのV-T直線の傾斜を表す値なので,nが小さいほうが寿命が長くなります.
機械加工心得ノート 熟練加工技術者となるために」のp.104とp.105によると,nは0.125から0.43の値となるようです.
Cは工具寿命1minの場合の切削速度を示します.
Cが大きいほど,高い切削速度で加工ができます.

実際に上記係数を同定しようとした場合には,加工条件の選定の仕方などにいくつか疑問が出てきますが,そこまでが本に書かれていることはないです.
例えば,当たり前ですが,これは切削速度と工具寿命の関係を調べるので,それ以外の条件が変わっては意味がないです.
切削速度を上げたときには,送り速度も上げて,1刃当たりの送り量や1回転当たりの送り量を一定に保つ必要があります.
他にも,工具寿命の判定は摩耗進展で行うべきであり,欠損が発生した場合は加工条件を見直さないといけないはずです.
そこくらいは考えれば思い至りますが,他に「こうするべきである」といったような規則はないのでしょうか.

まず,Taylorの寿命方程式の係数を求める方法については,過去には「JIS B 4011 超硬バイト切削試験方法」に記載されていたようです.
しかしながら,1999年に同規格は廃止されており,規格の移行先も無いみたいです.
そのため,現在発行されているJISでは確認できません.

色々調べた結果,「切削工具の寿命試験方法分科会報告」に,VT曲線を求める手順についての記述があるのは見つけました.
原文を読んでもらったほうが理解が早いと思いますが,最も重要そうな表4を以下に引用します.

表4 VT曲線を求める手順の概要

予備テスト 適当な切削速度を見出すために行う.このテストのデータは正規のデータにしてはならない.
測定点数 少なくとも4点の切削速度で摩耗対時間の測定をおこない寿命を関数,速度を変数として両対数グラフ用紙に記入する.
繰返し数 1切削速度で少なくとも3回以上試験することを推奨する.
最短寿命 少なくとも寿命が5分以上となる切削速度を用いる.但し特に高価な材料では2分以上.
速度比 各測定点の速度はおよそ寿命が一定率でますような数列によってきめる(公比1.06,1.12,1.25)
VT曲線のあてはめ データ処理は目的によって異なるが,視察または最小二乗法による.
観測曲線の良さ 分散,有為差,信頼限界などを求めうる.

やっぱり規則があるんだなぁ,と思いました.
今度からは気を付けて作成します.


以下に,寿命方程式の係数と定数を計算する機能を示します.

まず,定数Cと係数nが未知の場合の使い方について述べます.
ここでは,この定数Cと係数nを,いくつかの入力データから算出することができます.
入力部Aに,切り取り厚みと比切削抵抗のデータを2組以上入力した状態で「計算実行」を押すと,定数Cと係数nを最小二乗法で近似して得られた結果が表示されます.
このとき,入力部Cに工具寿命Tの数値を入れておくと,その工具寿命Tでの切削速度Vも算出します.

次に,定数Cと係数nが既知の場合の使い方について述べます.
入力部Aに1組以下のデータしか入力されていない場合,入力部Bに定数Cと係数nを入力して「計算実行」を押すと,そのときの比切削抵抗の変化のグラフが生成されます.
このとき,入力部Cに工具寿命Tの数値を入れておくと,その切工具寿命Tでの切削速度Vも算出します.

入力部A:工具寿命Tと切削速度Vからの近似

入力点 工具寿命T
(min)
切削速度V
(m/min)
A
B
C
D
E
*2組以上のデータが入力されていると,こちらの内容が定数Cと係数nとして優先される.

入力部B:定数Cと係数nの直接入力

*入力部Aに1組以下のデータが入力されていると,こちらの内容が定数Cと係数nとして優先される.
*「切削工具の寿命」の表3や表4に,定数Cと係数nの例が複数記載されています.


入力部C:工具寿命Tの入力



計算結果表示部

図 寿命曲線(両対数グラフ)


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