近似式の種類
測定結果に対して近似曲線を引くために近似式を作成する場合があります.
近似式を作成するときには,係数を決定する方法も重要ですが,それより重要なのは,どの種類の近似式を作成するか,だと考えます.
係数は重回帰分析とかで適当に決定すればいいですが,近似式の形によって,近似結果の精度が影響を受けるためです.
多項式近似,対数近似,指数近似,べき乗近似があります.
ここでは,切削加工で使われるものの話も絡めつつ,説明します.
- 多項式近似
\( Y = K_{0} + K_{1}X + K_{2}X^2 + K_{3}X^3 \cdots \)
変数Xのべき乗を事前にいくつか用意しておいて,その係数によって近似式を作る方式です.
どのべき乗を用意しておくかによって,近似精度が大きく変化します.
一番わかりやすいですが,切削加工に関連するものとしては,あまり見かけない気がします.
- 指数近似
\( Y = e^{KX} \)
ネイピア数(自然対数の底)のべき乗の形で近似式を作る方式です.
下図に,係数Kの値をいくつか変えて作成したグラフを示します.
必ずX=0,Y=1を通過することと,Xが正負どちらの値でもYは連続な値を持つことができます.
また,Kの数値によって,Xに対してYの増加と減少の両方が表現できます.
これも切削加工に関連する数式として,あまり見かけないです.
その理由は,切削加工で設定される数値に負の値がそもそも無いためだと考えます.
- 対数近似
\( Y = K\log{X} \)
自然対数の形で近似式を作る方式です.
下図に,係数Kの値をいくつか変えて作成したグラフを示します.
Xが正の値のときにのみ,Yが値を持ちます.
また,Kの数値によって,Xに対してYの増加と減少の両方が表現できます.
Xがゼロに近づくときに,Yがゼロに収束せず発散するという特徴があります.
有名なTaylorの寿命方程式は,これに分類されるはずです.
係数nを算出するときに,測定結果に対数をとった数値を使うためです.
\( C = VT^{n} \)
\( \log(C) = \log(VT^{n}) \)
\( \log(C) = \log(V)+\log(T^{n}) \)
\( \log(C) = \log(V)+n\log(T) \)
- べき乗近似
\( Y = X^{K} \)
変数Xのべき乗の形で近似式を作る方式です.
下図に,係数Kの値をいくつか変えて作成したグラフを示します.
Xが正負どちらの値でもYが値を持つものや,Xが正のときのみYが値をもつもの,X=0で連続にならないものがあります.
Kの数値によって,Xに対してYの増加と減少の両方が表現できます.
Xがゼロに近づくときに,Yがゼロに収束する場合と発散する場合の両方を表現できます.
たまに,寿命方程式の実験式で,切削速度や送り量のべき乗で中途半端な数値がかかっているものがありますが,あれはべき乗近似です.
べき乗近似が使われている理由は3つあると考えます.
まず,次式を仮定します.
\( C = T^{K_{0}} V_{c}^{K_{1}} f_{z}^{K_{2}} ap^{K_{3}} \)
これに対数をとります.
\( \log(C) = \log(T^{K_{0}} V_{c}^{K_{1}} f_{z}^{K_{2}} ap^{K_{3}}) \)
\( \log(C) = \log(T^{K_{0}} ) + \log(V_{c}^{K_{1}}) + \log( f_{z}^{K_{2}}) + \log( ap^{K_{3}}) \)
\( \log(C) = K_{0}\log(T ) + K_{1}\log(V_{c}) + K_{2}\log( f_{z}) + K_{3}\log( ap ) \)
この形になると,全ての項を独立して評価できるようになります.
各項の係数である,べき乗の数値を制御することで,Xに対してYの増加と減少の両方が表現できます.
つまり,この近似式を用いて測定結果をもとに係数を決めると,各項目が増加と減少のどちらに寄与しても表現できることになります.
これが1つ目の理由です.
2つ目の理由は,切削加工で設定される数値に負の値がそもそも無いためだと考えます.
3つ目の理由は,Xがゼロに近づいたときに,Yがゼロに収束する変化を表現できるためだと考えます.