びびり振動の分類
「びびり振動」と一口に言っても,発生原因が多岐にわたるので,切削中に発生する振動を適当にびびり振動と呼んでいいわけではないと思います.
ここでは,そのびびり振動に対して調べた結果をまとめます.
そもそも「びびり振動」とは何を意味するのでしょうか.
切削加工中に発生する振動は,なんでもかんでもびびり振動なのでしょうか.
機械工学辞典では,「切削加工や研削加工時に異常な振動が発生する現象で,加工面には特有のびびりマークが形成される.」とあります.
機械加工の振動解析の3ページ目では,「有害かつ危険をともなうほど顕著な振動だけをびびりと呼び,のちに述べる片振幅10μm以下程度の微弱な振動はびびりとはいわない場合もある」とあります.
いまいち,びびり振動とはそもそも何か,という定義が決まっていない印象を受けました.
詳細は後述しますが,びびり振動にはいくつかの分類があります.
その分類に当てはまるものはびびり振動と呼ばれると思いますが,そこに当てはまらない振動もあります.
となると,有害な振動全てをびびり振動と一括りにするのも,少し違うのではないかと思います.
しかしながら,一般的には,切削中に生じる有害な振動はすべてびびり振動と呼ばれているように思います.
びびり振動は英語では「chatter vibration」と表記されます.
これは,「おしゃべり」,「ガタガタと音を立てる」といった意味があり,発生時の音に着目した表現であることがわかります.
切削中の音の大きさは加工の激しさと定性的には比例するので,振動が大きい→加工音が大きい→加工に異常がある,というような繋がりで欧米でも理解されていると考えます.
次に,びびり振動の分類についてまとめます.
びびり振動は,強制振動と自励振動の2つに分類されます.
- 強制振動
振動を強制的に発生させる振動源が明確に存在するもの.
振動源の周波数が何らかの固有振動数に影響して発生するので共振現象に近い.
- 自励振動
振動を発生させる原因が切削現象にあるので,強制振動のような振動源が具体的なものとしてはない.
切削現象と,機械構造系の動特性との関係性で,振動が勝手に成長する.
また,強制振動と自励振動にも,いくつかの種類があるので,それを示しながら具体例も示したいと思います.
- 強制振動
- 力外乱型強制振動
振動源が断続切削や,鋸歯状切りくずの発生による切削力の変動である.
切削力変動が原因なので「力外乱」と表記される.
その切削力変動の周波数が,何らかの固有振動数と共振する.
- 変位外乱型強制振動
振動源が機械構造体の内部にあり,主軸回転などによって共振が発生し,切削をしていなくとも刃先が変動しており,その変動が切削中の振動原因となる.
切削加工に関係なく刃先が変位しているので「変位外乱」と表記される.
例えば,内部の歯車が欠けていて振動が発生し,それが刃先の変位として現れる.
他にも,隣接する別な工作機械の振動が地面を伝って,評価対象の工作機械の刃先を揺らす場合も,これに該当すると思います.
- 力外乱型強制振動
- 自励振動
- 再生型自励振動
再生効果によるフィードバックで発生する振動.
再生効果というのは,前加工面と,現在の刃先位置の相対位置関係が切り取り厚さ変動に影響する効果を指します.
再生効果と呼ばれるのは,その発生する理屈がレコードの再生に似ているからではないかと思います.
再生効果の関係で,回転に応じたある程度の位相差が生じるため,加工面に傾いた縞模様が生じます.
びびり振動の話としては一番有名なものだと思います.
安定限界線図や,低速安定性,プロセスダンピング,モードカップリングなどの単語が出てきます.
- 摩擦型自励振動
切削速度の動的な変動に対する切削力の垂下特性(切削速度が増大した瞬間に切削力は低下する)が起こすフィードバックによって生じる.
このタイプの振動の話は,あまり聞いたことがないです.
- モードカップリング型自励振動
複数方向の振動モードが同じ共振周波数をもつ場合,その複数方向での振動が連成して振動が成長して生じる.
方向によって共振周波数が変わるような異方性を持たせると抑制できるようです.
- 再生型自励振動
それは,工作物剛性や工具剛性が単純に低くて,断続切削時に切込み量が変動する場合の振動です.
力外乱型強制振動に該当するような気もしますが,固有振動との共振というより,断続切削の周波数でそのまま生じるため少し違うような気がしています.
加工中の振動が,これが原因で生じている場合もあるのですが,これをびびり振動と呼ぶのかどうかがよくわかっていないです.
上記したように振動には様々なものがあります.
振動の発生原因は,切削現象や工作物剛性,工具剛性,主軸剛性,工作機械内部,工作機械外部のどこかになります.
では,どうやって原因の切り分けを行うのでしょうか.
最初に実行しやすいものとしては,切削条件を変える方法と,空転させる方法があります.
空転させても発生する場合は,原因が工作機械内部か工作機械外部にあるので,切削現象とは直接には関係ないです.
切削速度を変えるとなくなるのは,再生型自励振動や強制振動の可能性があります.
再生型自励振動は,加工中の振動に位相遅れがあるので,加工面に一定の傾きを持つ模様が生じるはずです.
強制振動は,切削によって生じる振動の倍振動が,工作物や主軸の固有振動に一致して発生します.
工作物や主軸,工具の静剛性や動特性を測定できれば,その結果を解析して,振動を回避する方法を検討することができます.
参考文献: