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最終更新日:2024年02月09日

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切りくず分断から考える,チップブレーカとチップカーラ,チップフォーマ

切れ刃近傍につけられている凹凸や傾斜をチップブレーカ(chip breaker)と呼んでいます.
チップブレーカには別名でチップカーラ(chip curler)やチップフォーマ(chip former)というのがあります.
超硬工具用語集」には,チップブレーカとチップフォーマが単語として記載されています.
同書では,チップブレーカの目的は「切りくずを長手方向又は幅方向に適当な小片に破断,又は分断させること」と説明されています.
また,チップフォーマの目的は「切りくずを,適当な形状に変形させる」と説明されています.
個人的には,チップカーラやチップフォーマという名称のほうが本質的には正しいのではないかと思っています.
その理由を以下に示します.

チップブレーカは,そもそも何のためについているかというと,利用者としての視点から考えると,切りくずを分断したいからだと思います.
ただ,実際には,チップブレーカ自身は,切りくずのカールを変えているだけで,分断を直接行っているわけではありません.
チップブレーカで切りくずが分断されるなら,切りくずの長さは数ミリくらいにしかなりません.
これをある程度の長さで分断するには,以下のような流れが必要です.

  1. 切りくずがある程度長くなり,ある程度のカールを持つ.
  2. 切りくずが逃げ面やボディに接触することによる反力や,重力による荷重によって,切りくずにモーメントが発生する.
  3. モーメントが,刃先近傍の切りくずに作用し,切りくずのカールを拡げるように作用する.
  4. カール拡大により生じる最大曲げ応力が,切りくずの破断荷重を超えたときに切りくず分断が生じる.
  5. 最初の状態に戻る

ここで重要なのは,切りくずを分断させる荷重の力点が,チップブレーカ上にはないことです.
この力点を発生させないことには切りくず分断はできません.
つまり,チップブレーカの役割の1つは,「切りくずを特定の方向に成長させて,切りくずを逃げ面やボディに接触するように誘導し,荷重を生じさせる」ことです.

次に重要なのは,発生した荷重によって切りくずが分断することです.
発生した荷重が,切りくずの破断荷重を越えなければ,切りくずは延び続けることになります.
切りくずの破断荷重を制御するには,切りくずの形状を制御する必要があります.
切りくず断面形状のおおよその寸法は,1刃当たりの送り量や切込み量によって定まります.
ただし,切削条件だけで切りくずの断面形状が決まってしまうと,ある切削条件範囲では切りくずが分断できないことになってしまいます.
ここで出てくるのが,チップブレーカとカール径です.

チップブレーカのもう1つの役割は,「上記の荷重によって破断できるようなカール径に,切りくずのカール径を調整する」ことです.
切りくずは一定のカール径をもって発生するのですが,このカール径を拡大させるように曲げたときに分断できるかどうかは,被削材,幅,厚み,カール径の影響を受けます.
被削材,幅,厚みは,加工条件によってほぼ定まるので,チップブレーカ選定によってカール径を制御することになります.
このカール径によって破断が生じるか否かという理屈に関しては,参考文献を参照してください.

簡単な見分け方としては,切りくずのカールを拡大させるように手で曲げてみて,全く折れない切りくずでは,切りくず分断は難しいと思います.
この折れないというのは,硬すぎて全く曲がらない,という意味と,柔らかすぎて分断が起きない,という2つの意味を含んでいます.
硬すぎて全く曲がらないほうは,切りくずの流出方向に壁にでも作って,無理やりぶつければ折れるかもしれませんが,大きな荷重によって振動が生じる可能性があります.
柔らかすぎて分断が起きないほうは,壁を作っても無駄なので,1刃当たりの送り量や切込み量を増やして,切りくずの断面を大きくしたほうがいいと思います.

チップブレーカは,チップをブレークするのには必要なのですが,チップブレーカ自身がチップをブレークしているわけではない,ということが伝わったかと思います.
そのため,本質的には,チップブレーカは切りくずの流出方向やカール径を制御するものなので,チップフォーマが正しいのではないかと思います.

参考文献:
中山一雄,チップブレーカの研究,日本機械学会論文集,27巻,178号,1961年,pp.833-843



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