切削油剤の供給に関係する計算
切削油剤(クーラント,切削液)を供給するときに,流量や圧力を設定したりするのですが,計算方法がよくわからないので調べた結果をまとめます.
計算ができたところで,何の役に立つかよくわからないような気もします.
- 流量の測定方法
流量を測定する真面目な方法としては,配管の途中に,水道についてるような流量計を配管に付ければいいのだと思います.
ただし,工作機械のどこにどうやってそれを付けるのか,という問題があるので,別な方法を使います.
「容器法」という方法です.
この方法は,トイレの水圧調査や,農業用水の流量調査にも使われています.
まず,ストップウォッチで時間を測りながら,バケツなどの容器に切削油剤を貯めます.
出始めと止め際は流量が減るので,切削油剤をある程度の時間出し続けます.
切削油剤を止めた後,容器内にたまった切削油剤の体積を計測します.
計測した体積を時間で割れば,単位時間当たりに供給される切削油剤の流量が計算できます.
欠点としては,測定対象の流量が多いほど,用意するバケツも大きくしないといけない点が挙げられます.
- 流速と圧力の計算方法
容器法で流量を測定できれば,流速と圧力を計算することができます.
まず,切削油剤を加工点に供給している穴の面積を測定しておきます.
その面積を使って,次式に示すように,流量を面積で割れば,流速になります.
\(\displaystyle u = \cfrac{Q}{A} \)
\( u \): 流速
\( Q \): 流量
\( A \): 供給穴の面積
次に,ベルヌーイの定理を使います.
\(\displaystyle p + \cfrac{1}{2} \rho u^2 + \rho g h = constant \)
切削油剤が速度ゼロで圧力をかけられている状態と,穴から出た直後の2状態に適用します.
このとき,高さによる位置エネルギの項は,高さが同じだとして無視します.
\(\displaystyle p_{input} = p_{air} + \cfrac{1}{2} \rho u_{tool}^2 + \rho gh + \Delta p_{loss}\)
\( p_{input} \): 切削油剤を流すためにポンプが出している圧力
\( p_{air} \): 大気中に供給された時の圧力(大気圧)=0.101325MPa
\( \Delta p_{loss} \): ポンプから工具端までの圧力損失
\( \rho \): 切削油剤の密度(水溶性の切削油剤なら,水の密度として997kg/m3を使えばいいと思います)
\( u_{tool} \): 工具から吐出される切削油剤の流速(容器法で算出した結果を代入)
\( g \): 重力加速度
\( h \): ポンプ吐出口と工具端との高さの差
\( \rho g h \)の項は,水深みたいなものなので,切削油剤がほぼ水であれば10mで0.1MPaなのですが,大型工作機械でもないと10mの差はないので,ほぼ無視できると思います.
上式で未知数なのは\( \Delta p_{loss} \)だけであり,これは工作機械内部での圧力損失を示します.
ここで,1つの仮定を置いて,数式を作ります.
工作機械の主軸先端に取り付けた切削工具から切削油剤が出てくるわけですが,その工具端の直前の位置にポンプが取り付けられていると仮定したとき,そのポンプの圧力はいくつになるのでしょうか.
そのポンプの段階では,流速がなく,静圧のみが作用すると仮定できるため,次式によりその圧力が計算できます.
\(\displaystyle p_{tool} = p_{air} + \cfrac{1}{2} \rho u_{tool}^2 \lt p_{input} \)
ここで得られる圧力の数値は,切削油剤供給用のポンプやMCで設定した圧力よりも低いと思います.
計算誤差も考えられますが,主としては,圧力損失によって,圧力をかけている位置と吐出位置間でエネルギーロスが起きているためです.
ここで重要なのは,ポンプの設定圧力と,実際に切削工具にかかっている圧力は異なる,という点です.
圧力損失として得られた\( \Delta p_{loss} \)には,直管損失,入口損失,出口損失,曲がり損失,拡大損失,縮小損失などが含まれます.
これらの損失は,流速の二乗に比例しています.
ポンプから吐出口までの形状を変えないのであれば,切削油剤は非圧縮性流体なので,流量と流速は比例します.
そこで,下式のように定義すれば,測定対象の管路全体の抵抗曲線を計算することができるのではないかと考えます.
\( \Delta p_{loss} = \gamma Q^2\)
\( \gamma \):圧力損失の係数
これが計算できたところでと何に使えるのかというと,ポンプの性能曲線に抵抗曲線を引くことができます.
他には,工作機械ごとに,この係数は違う値になるはずなので,それを眺めるくらいだと考えます.
- 切削油剤の衝突で生じる荷重
工作機械内にたまった切りくずを切削油剤で掃除しますが,圧力が低いと切りくずを押し流すのに十分な荷重が生じず,切りくずが除去できません.
そこで,切削油剤が衝突することで生じる荷重の計算式を示します.
板に衝突する液体の力積を想定すると次式が算出できます.
\(\displaystyle F = \rho Q u = \cfrac{\rho Q^2 }{A} \)
\( F \): 切削油剤の衝突による荷重
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