切削熱の推定
切削温度が工具寿命に影響するという話があります.
この加工点の温度推定というのは非常に難しく,熱電対などを使っても,すくい面上での温度分布を把握することは非常に難しいです.
それでは,加工点で発生する熱量,つまり,切削熱は推定できるのでしょうか.
これができたところで,何がわかるのか,とは思いますが,切りくずの温度や,ボディの温度推定,切削油剤に必要な冷却性能の推定やらに使えるかもしれません.
そこで,切削熱の推定方法について調べてみたいと思います.
まず,切削熱の発生源は,加工点での切削による仕事です.
単位時間当たりの仕事,つまり,仕事率は,単位時間あたりの力と移動距離の積で求めることができます.
力は,切削抵抗から算出できます.
\( F_{c} = K_{c}f_{z}a_{p} \)
\( F_{c} \): 切削抵抗
\( K_{c} \): 比切削抵抗
\( f_{z} \): 1刃当たりの送り量
\( a_{p} \): 切込み量
単位時間当たりの移動距離は切削速度なので,仕事率は次式で定められます.
\( P = \cfrac{V_{c}K_{c}f_{z}a_{p}}{60} \)
\( P \): 仕事率 [W]
\( V_{c} \): 切削速度 [m/min]
では,この仕事率のうち,どのくらいが単位時間当たりの切削熱に変化するのでしょうか.
塑性変形を生じさせるのにエネルギーを結構使うのではないかと思ったのですが,そうでもないようです.
「切削加工論」のP62や,「切削の理論と実際」のP37によると,切削仕事の97%から99%は熱エネルギーになっているとのことです.
次に加工点で発生した切削熱は,切削工具,工作物,切りくずの3つに分配されます.
「切削加工論」のP87とP88を参照すると,切りくず>切削工具>工作物の順に分配されることがわかります.
これは,熱の発生源が切りくず内部での塑性変形と,切りくずとすくい面の摩擦によるものと推定できます.
そのため,切削速度が高くなるほど,切りくずへの分配割合が高くなり,切削工具と工作物の分配割合は低くなる傾向があります.
切削速度や1刃当たりの送り量にもよっても変わるようですが,具体例としては,以下のような割合があります.
切りくず:50%から80%
切削工具:10%から30%
工作物:10%から20%
ここで,切削熱が大体どのくらいの数値になるのかの計算例を示してみます.
旋削での連続加工において,炭素鋼S45Cを切削速度200m/min,1回転当たりの送り量0.1mm/rev.,切込み量1mmで加工したと仮定します.
比切削抵抗は3600MPaとします.
\( P = \cfrac{200 \cdot 3600 \cdot 0.1 \cdot 1}{60}= 1200 [W] \)
暖房器具くらいの熱量を発生させることができるようです.