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最終更新日:2023年11月4日

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すくい角が切削抵抗に与える影響の定量評価

すくい角を変えると切削抵抗が変わるのはよく言われています.
しかしながら,すくい角をどのくらい変えると切削抵抗はどのくらい変わるのか,について数値を示しているのはあまり見たことがありません.
当然ながら,加工条件や工具形状,被削材によって変化するのは容易に想像がつきます.
それでも,なんとなくの目安くらいは知りたいと思ったことはないでしょうか.
ここでは,いくつかの文献からその関係性を読み取ることによって,関係性の定量化を試みます.

  1. 負すくい角バイトによる金属切削に関する研究
    図4より,Φ50の丸鋼,切削速度110m/min,切削幅3mm,1回転あたりの送り量0.8mmのグラフを抜き出して,適当に直線をあてはめると次式が得られる.
    1回転あたりの送り量が大きい条件を抜き出しているのは,刃先丸みの影響を小さくするためです.
    \( F_{c} = 61.0 - 0.768\gamma \)
    \( F_{c} \): 切削抵抗の主分力(kg)
    \( \gamma \): すくい角(degree)
    ここから,すくい角1度の切削抵抗への影響を計算すると1.26%なります.

    同じく図4より,Φ50の丸鋼,切削速度190m/min,切削幅3mm,1回転あたりの送り量0.8mmのグラフを抜き出して,適当に直線をあてはめると次式が得られる.
    \( F_{c} = 61.5 - 0.497\gamma \)
    \( F_{c} \): 切削抵抗の主分力(kg)
    \( \gamma \): すくい角(degree)
    ここから,すくい角1度の切削抵抗への影響を計算すると0.81%になります.

  2. すくい角が周期的に変動する切削の実験
    図10より,外径Φ60で内径Φ42の円筒形状の特号鉛(純度99.9%),切削速度110m/min,切削幅3mm,1回転あたり送り量0.23mmのグラフを抜き出して,適当に直線をあてはめると次式が得られる.
    \( F_{c} = 27.0 - 0.363\gamma \)
    \( F_{c} \): 切削抵抗の主分力(kg)
    \( \gamma \): すくい角(degree)
    ここから,すくい角1度の切削抵抗への影響を計算すると1.34%になります.

  3. 旋削における切削抵抗の簡便な推定法
    図2(b)より,被削材64黄銅,切削速度69m/minから79m/min,切削幅2mm,1回転あたり送り量0.212mmのグラフを抜き出して,適当に直線をあてはめると次式が得られる.
    \( F_{c} = 741 - 10.20\gamma \)
    \( F_{c} \): 切削抵抗の主分力(N)
    \( \gamma \): すくい角(degree)
    ここから,すくい角1度の切削抵抗への影響を計算すると1.38%になります.

  4. Sandvikの技術資料
    Sandvikさんの「総合カタログ2019」の「I 一般技術情報」にある「一般公式と定義 旋削加工,突切り・溝入れ加工」のページに次式が載っています.
    \( k_{c} = k_{c1} h_{m}^{-m_{c}} (1 - \cfrac{\gamma_{0}}{100}) \)
    \( k_{c} \): 比切削抵抗
    \( k_{c1} \): 比切削抵抗(\( h_{m} \)=1 mmの場合)
    \( h_{m} \): 平均切りくず厚さ
    \( m_{c} \): 切りくず暑さによる比切削抵抗(\( k_{c} \))増加値
    \( \gamma_{0} \): すくい角
    被削材ごとの定数にしか思えない数値がカタログに記載されていないみたいなので使おうと思っても使えない数式です.
    しかしながら,比切削抵抗がすくい角1度につき1%変わることだけはわかる数式になっています.

  5. 三菱マテリアル すくい角による影響
    「すくい角が正(+)に1°大きくなると,切削動力が1%低下する」という記載があります.
    なぜ切削動力が下がるかというと,切削抵抗が下がるからなので,すくい角1度の切削抵抗への影響は1%ということになります.

ひとまず,ここでは5つの例におけるすくい角と切削抵抗の関係性を示しました.
それぞれ工具諸元や被削材は違っているものの,「すくい角の1度は切削抵抗の1%に相当する」ような感じになりました.
当然ながら,個々の加工状況で実際の数値は変わってくるはずですが,参考値として覚えておいても損はないのではないでしょうか.

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