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最終更新日:2021年12月03日

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切削速度と加工形態

切削速度は切削抵抗や加工能率に影響しますが,主に影響するのは切削温度だと考えます.
切削温度が低いと溶着が発生する場合があり,切削温度が高すぎるとすくい面摩耗が発生する場合があります.
溶着は被削材の性質や,被削材とコーティングの親和性の影響が大きく,すくい面摩耗は,コーティングや工具母材の性質の影響が大きい.
そのため,切削加工の良否としての最適な切削温度は,被削材や,チップのコーティングによって決まります.
カタログなどでも被削材ごとに推奨切削速度が設定されているのは,こういった理由だと考えます.

次に,加工形態による,切削温度への影響の差異について考えます.
切削加工での加工形態は大きく分けて,穴あけ,旋削,フライスの3種類があります.

表 加工形態の比較

項目穴あけ旋削フライス
加工点の数単点単点多点
連続/断続連続連続/断続断続

加工点が多いほど熱が分散しますし,断続加工では非加工時間があるため空冷による温度低下が見込まれます.
そうなると,切削速度が同じで,かつ,同じコーティング,同じ被削材で加工をおこなった場合,「穴あけ→旋削→フライス」の順に切削温度が低くなると推測できるのではないでしょうか.

そうであるとすると,同じ切削速度で加工しても,加工形態によって切削温度が変化すると考えた場合,同じ切削温度を実現するには,加工形態ごとに切削速度を変える必要があることになります.
実際に,切削工具のカタログなどで推奨切削速度を確認しても,そういった傾向があることがわかります.

表 超硬合金切削工具による被削材ごとの推奨切削速度Vc(m/min)の範囲
被削材穴あけ旋削フライス
FCD60025 - 10045 - 18055 - 200
SKD6110 - 3020 - 18015 - 200
SUS30445 - 9550 - 20080 - 250
Ti-6AL-4V30 - 8525 - 10525 - 115

最終的に何を言いたいのかというと,例えば,旋削加工での最適な切削速度を得られたとして,それをフライスや穴あけにそのまま適用するというのは良くないのではないか,ということです.
特に,工具径に対する半径方向切込み量の割合で空転時間による空冷の影響が変わり,刃数によっても工作物に対しての入熱量が変わるといった,色々な機構が影響するので,フライスでの温度調整はめんどくさいと思います.



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