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最終更新日:2022年07月28日

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ドリルの直径による寸法効果を考慮した送り量の調整

旋削工具やフライス工具,穴あけ工具には,単刃や多刃など,それぞれの特徴があります.
穴あけ工具,特に,ドリルにおいては,ドリルの工具径が加工形状を決定する,という特徴があります.
これは,ドリルはその工具径と同じ大きさの穴を空けることを基本の目的としているためです.
(当然ながら,下穴があいていると違うのですが,そこは無視しておいてください.)
旋削工具やフライス工具は,半径方向切込み深さや軸方向切込み深さという概念がありますが,ドリルにはありません.
よって,ドリルにおいて工具径を変えたときに,切削面積に影響するのは,他には1回転あたりの送り量しかないです.
切削面積の大きさは切削抵抗に直接影響します.
切削抵抗には切削速度も影響しますが,切削面積ほど直接的には影響しないので,いったん置いておきます.

工具径を変えたときには,ドリルの剛性や強度も変わります.
そこで,工具径を変えたときの,切削抵抗と剛性,強度への影響を簡単に計算することで,ドリルの工具径による寸法効果を考えてみます.

複雑なことをやるとわかりにくくなるので,問題を単純化します.
第一の仮定として,ドリルの工具径を変えても,刃先形状はそのまま相似的に変わるものとします.
また,第二の仮定として,ドリルの断面形状については,円柱として剛性や強度を計算します.
実際には円柱ではないですが,刃先形状が相似的に変わるなら,工具径による剛性や強度への影響は円柱と同様の比例関係になると仮定します.

まず,工具径による切削抵抗への影響は次式で示します.
切削抵抗の半径方向成分:\(\displaystyle F_{xy} = K_{xy} \Delta d f_{r} \)
切削抵抗のスラスト方向成分: \(\displaystyle F_{z} = K_{z} D f_{r} \)
切削抵抗のトルク成分:\(\displaystyle T = K_{t} D^{2} f_{r} \)

\(\displaystyle K_{xy} \):切削抵抗の半径方向成分の比切削抵抗
\(\displaystyle K_{z} \):切削抵抗のスラスト方向成分の比切削抵抗
\(\displaystyle K_{t} \):切削抵抗のトルク成分の比切削抵抗
\(\displaystyle \Delta d \):半径方向の振れ
\(\displaystyle f_{r} \):1回転当たりの送り量
\(\displaystyle D \):工具径

次に,円柱の各種剛性と強度を次式に示します.
先端集中荷重の片持ち梁での変位:\(\displaystyle \delta = \cfrac{F_{xy}L^3}{3EI} = \cfrac{64F_{xy}L^3}{3 \pi ED^4} \)
片持ち梁固定端での最大曲げ応力:\(\displaystyle \sigma_{max} = \cfrac{F_{xy}L}{Z} = \cfrac{32F_{xy}L}{\pi D^3} \)
ねじれ角:\(\displaystyle \theta = \cfrac{TL}{GI_{p}} = \cfrac{32TL}{\pi G D^4} \)
最大ねじり応力:\(\displaystyle \tau_{max} = \cfrac{TD}{2I_{p}} = \cfrac{16T}{\pi D^3} \)
引張圧縮応力:\(\displaystyle \sigma_{z} = \cfrac{4F_{z}}{\pi D^2} \)
座屈荷重:\(\displaystyle F_{cr} = \cfrac{\pi^2 I}{4 L^2} = \cfrac{\pi^3 E D^4}{256 L^2} \)

\(\displaystyle L \):ドリルの突き出し量
\(\displaystyle E \):縦弾性係数
\(\displaystyle G \):横弾性係数

次に,切削抵抗の簡易式を,剛性と強度に代入していきます.
先端集中荷重の片持ち梁での変位:\(\displaystyle \delta = \cfrac{64}{3 \pi E} \cfrac{L^3}{D^4} K_{xy} \Delta d f_{r} \)
片持ち梁固定端での最大曲げ応力:\(\displaystyle \sigma_{max} = \cfrac{32}{\pi} \cfrac{L}{D^3} K_{xy} \Delta d f_{r} \)
ねじれ角:\(\displaystyle \theta = \cfrac{32}{\pi G} \cfrac{L}{D^2} K_{t} f_{r} \)
最大ねじり応力:\(\displaystyle \tau_{max} = \cfrac{16}{\pi} \cfrac{1}{D} K_{t} f_{r} \)
引張圧縮応力:\(\displaystyle \sigma_{z} = \cfrac{4}{\pi} \cfrac{1}{D} K_{z} f_{r} \)

座屈荷重そのものは形状で決まってくるので,あとで計算します.
上記計算式を眺めると,工具径と突き出し量,1回転当たりの送り量が剛性と強度に与える影響をざっくりと理解できます.
これらを何に使うのか,という疑問がありますが,1回転当たりの送り量の調整などに使えると考えます.
例えば,最大曲げ応力を一定に保ちたい場合,工具径が半分になったときは,1回転当たりの送り量を1/8にしないといけないです.
それに対して,最大ねじり応力を一定に保ちたい場合,工具径が半分になったときは,1回転あたりの送り量も半分にすればいいです.
このような感じで,工具径を変えたとき,1回転あたりの送り量を,どのくらい調整する必要があるかの理解に使えると考えます.

1回転当たりの送り量の調整に使うという方針で,座屈の式変形をすると次式が得られます.
座屈荷重:\(\displaystyle f_{r} \lt \cfrac{\pi^3 E }{256} \cfrac{D^3}{L^2}\cfrac{1}{K_{z}} \)

ドリルが破壊する原因が曲げ応力かせん断応力か,といったことも併せて検討する必要があるので,結局使いにくいですが,たぶんこんな感じなのではないでしょうか.


参考文献:
笠原和夫,広田明彦,ドリルの幾何的相似性に基づいた切削抵抗の予測,精密工学会誌,Vol.55,No.3,pp.545-550



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