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最終更新日:2022年11月06日

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加工硬化層

切削加工によって形成された工作物表面には,切削時の切削力によって加工変質層が生じています.
変化している性質として硬度に着目すると,加工硬化層をみていることになります.
硬度が高い被削材ほど,切削加工としては削りにくくなります.
この加工硬化層の硬度が高く,また,その層が深いほど,加工面を再度切削するような加工時には,加工硬化層のことを考慮する必要があります.
そこで,ここでは加工硬化層について調べてみます.

切削加工の加工硬化において,よく言われるのは「ステンレス鋼は加工硬化しやすいので,微小送りや微小切込みでの加工はしないほうがよい」ということです.
金属は塑性変形が加わると,そもそも加工硬化します.
これは,塑性変形によって転位密度が上がり,塑性変形しなくなることが原因です.
よって,S45Cや60-40黄銅といった他の金属でも加工硬化は生じます.
これに加えて,オーステナイト系ステンレス鋼は,塑性変形によってオーステナイトがマルテンサイトに変化するため,加工硬化がさらに生じやすいそうです.
オーステナイト系ステンレス鋼としては,SUS304やSUS316あたりが有名だと思います.

では,次に,「微小送りや微小切込みでの加工はしないほうがよい」というのは,具体的に,どのくらいの数値を設定することを指しているのでしょうか.
この文章の意味としては,送りや切込みを大きくして,加工硬化層の先にある,通常の硬度を持つ母材から除去することを意図していると推測できます.

加工硬化層の深さは,送りや切込みだけでなく,すくい角や刃先丸みの影響も受けます.
すくい角や刃先丸みは,せん断角を変化させることで,加工硬化層に影響するようです.
せん断角は切削速度の影響も受けるので,切削速度を高くして,加工硬化層を浅くすることも狙えます.

同じ送りや切込みで,同じ位置の工作物を繰り返し加工する場合は,送りや切込みよりも,加工硬化層が浅くなければなりません.
しかしながら,参考文献をみていると,送りや切込みよりも,生成される加工硬化層が明らかに深い場合があります.
その条件下においては,送りや切込みを大きくしても,加工硬化層よりも深いところを削ることは難しいです.
ただし,少しでも深い位置を加工したほうが,被削材の硬度が下がる効果は得られます.
しかしながら,そういう場合は,すくい角や刃先丸みを見直すことで,加工硬化層を浅くすることを検討したほうがよいと考えます.

参考文献:

  1. 木村篤良,ステンレス鋼の切削加工
  2. 伊藤哲朗,ステンレス鋼の被削性
  3. 上野祐嗣, 佐々木朋裕, 八高隆雄,オーステナイト系ステンレス鋼の加工硬化と被削性
  4. 引地力男, 近藤英二, 皮籠石紀雄, 新井実,切削加工における加工硬化層の生成機構 : 第1報, 加工硬化層の生成に関する力学的因子の検討
  5. 引地力男, 近藤英二, 皮籠石紀雄, 新井実,切削加工における加工硬化層の生成機構 : 第2報,加工硬化層の深さに影響する力学的因子の計算モデルによる検討
  6. 引地力男, 近藤英二, 皮籠石紀雄, 新井実,切削加工における加工硬化層の生成機構 : 第3報,切れ刃の丸みが加工硬化層に及ぼす影響
  7. 引地力男,油田功二,原田正和,上野孝行,吉満真一,切削加工における切削抵抗が加工硬化層に及ぼす影響,鹿児島工業高等専門学校研究報告,35(2000),pp.9-15.
  8. 引地力男, 河野良弘, 近藤英二, 新井実,二次元切削における切れ刃の丸みが加工硬化層に及ぼす影響



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