硬さとじん性による工具材質評価の意味
工具材質の比較において,縦軸と横軸に硬さとじん性をとった図をよく見ます.
硬さとじん性がトレードオフの関係にあることや,工具材質によって占める位置が異なることを示している図です.
工具材質の評価指標として,硬さは耐摩耗性,じん性は耐衝撃性を示すといわれています.
よくよく考えると,なぜ硬さとじん性で評価するのか,そもそも硬さやじん性とは何なのか,がよくわかっていなかったので調べることにしました.
まず,なぜ硬さとじん性で評価しているのか,についてです.
炭素鋼などの延性材料であれば,引張試験によって降伏点や引張強さが含まれた応力ひずみ線図を取得することができます.
しかしながら,超硬合金やダイヤといった脆性材料では引張試験が困難であるため,硬さとじん性で評価を代用するようです.
この「困難」というのは,材料が塑性変形をほとんど伴わずに破断してしまうためなのか,そのぜい性によって試験材の形状に整えるのが難しいためなのか,のどちらなのかはわかりませんでした.
ここで一旦,硬さとじん性の調査結果をまとめます.
硬さ(Hardness):
硬さ試験では,角錐や球などの圧子を試験片に押し付けたりすることによって,試験片を変形させ,その変形状態から硬さを測定します.
ぜい性材料の評価に,硬さ試験が適用可能な理由として,以下の2点が考えられます.
- 引張荷重ではなく圧縮荷重をかける試験であること
- 局所的に負荷を加える方法なので試験材の形状を引張試験ほど整える必要がないこと
じん性(Toughness):
じん性といっても,いくつかの評価指標があるようです.
調べた範囲では,抗折力,シャルピ衝撃値,破壊じん性値の3つがありました.
- 抗折力:切り欠きのない角柱形状の試験片に対して2点支持中央荷重を加え,試験片を破断させて,破断時の荷重を求める.抗折力は曲げ強さを示す.
- シャルピ衝撃値:シャルピ衝撃試験によって求められる.切り欠きの入った角柱状の試験片をシャルピ衝撃試験機によって破壊し,破壊に要したエネルギを求める.
- 破壊じん性値:き裂が急速に拡大して破壊に至るときの応力拡大係数のことを破壊じん性値といい,破壊じん性試験という,き裂を入れた試験片に荷重を加える試験によって測定されます.き裂の大きさと荷重の大きさのどちらか一方でも大きくなると,応力拡大係数は大きくなります.
しかしながら,これらの指標はどれも物理量が異なるという特徴もあり,「硬さとじん性」で評価するときのじん性をどれが示しているのかがわかりません.
色々調べた結果,機械工学辞典の「抗折力」の項目によると「硬さと抗折力によって比較される」と書かれているので,抗折力なのではないかと考えます.
また,超硬合金を販売しているメーカのWEBサイトで,超硬合金の仕様を確認すると項目の中に硬度と抗折力が含まれているので,抗折力がじん性を示している可能性は高いです.
上記調査結果より,「硬さとじん性」という評価指標は「硬さと抗折力」のことを示しているとします.
では次に「硬さと抗折力」で何を見ようとしているのかについて考えます.
硬さは,試験片の変形状態を測定して算出されます.
この変形状態というのは圧痕形状などを示しているため,降伏点や塑性流動などの塑性変形を主として評価していると考えられます.
それに対して,抗折力は破断時の荷重を測定しているため,そのまま破断荷重を示しています.
よって,「硬さと抗折力」によって,降伏点や破断荷重といった材料特性を収集しているといえます.
これは,延性材料における引張試験で得られるのと同じような情報といえます.
そのため,ぜい性材料では引張試験が困難なので「硬さと抗折力」で代用しているというのは,そのままの意味なのだと考えます.
最後に,工具材質の評価指標として,硬さは耐摩耗性,じん性は耐衝撃性を示す,ということについても上記内容を反映させて考えます.
硬さが大きいと,傷がつきにくいことを示すので,耐摩耗性が高いというのは,そのままの意味であることが理解できます.
じん性が耐衝撃性を示すというのは,破断荷重が大きければ,衝撃が加わっても工具が破損しにくくなるので,そのままの意味だということもわかります.
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