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最終更新日:2024年05月02日

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インサート形状と強度の関係

「Metal Cutting Theory and Practice」の182ページの図4.18によると刃先角35度→55度→60度→80度→90度→100度→135度→円形」の順に刃先強度が高まり,熱拡散も早くなるそうです.
ただし,どうしてそういった順番になるのかといったことは記載されていません.
多角形インサートであれば刃先角が大きくなるほど刃先強度が高く,それらよりも円形インサートのほうが刃先強度が高い,ということ自体は感覚として理解できます.
そこで,ここでは,これを定量的に考えてみます.

結局,刃先角によって何が変わっているかといえば,インサートの幅が変わっているといえます.
この幅が広くなるほど,刃先の荷重を受け止めるための面積を広くとることができ,応力を下げることができます.
また,面積が広ければ熱の拡散も早くなります.
そこで,このインサートの幅を定量的に評価することとします.

下図に計算方法を示します.
問題を簡単化するため,刃先先端から距離Lでの断面の幅Wを評価します.
実際には,切込み角の設定などによって,切れ刃として使用する領域が異なりますし,切削抵抗そのものも変化します.
そこまで考慮すると話がややこしくなるので,ここではインサート形状そのものの強度や熱特性の差を検証するため,こういった比較方法をとることにします.

insertshapestrength_calculation
図 インサート形状による断面の幅Wへの影響の計算方法

計算式は以下のとおりです.

Lを0.5mmとしたときのWの計算結果を以下に示します.
円形インサートの半径は8mm,12mm,16mmとしています.

insertshapestrength_05mm
図 インサート形状による断面の幅Wへの影響(L=0.5 mm)

「Metal Cutting Theory and Practice」に書いてあったとおりの順位が得られました.
よって,記載されている内容は,これと同じような考え方で主張されているものと考えられます.
ここでは定量的に評価しているので,例えば,刃先角35度に対してR16では,25倍の幅が得られることがわかりました.

Wの計算結果はLによっても変化することがわかるので,Lを変化させてみます.
また,刃先角による差を検証するため,各Lでの刃先角35度の幅Wを基準とした比率で整理します.
その計算結果を以下に示します.

insertshapestrength_multi
図 インサート形状による断面の幅Wへの影響(比率)
*L=0.5 mm,1 mm,3 mm,5 mm

ここで1つ面白いことがわかります.
Lの増大の伴い,円形インサートの幅Wが相対的に短くなっており,L=3mmや5mmでは,刃先角135度よりも短くなっています.
インサートが破損する箇所によっては,刃先角135度のほうが強度が高くなることがあるのかもしれません.

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