Jaegerの移動熱源
切削加工の熱に関する論文を読んでいると「Jaegerの移動熱源」という単語がよく出てきます.
論文としては「J.C.Jaeger:Moving Sources of Heat and the Temperature at Sliding Contacts, Proc.Roy.Soc. of New South Wales,76(1942),pp.203-224」がよく引用されています.
同様に「Conduction Of Heat In Solids」もよく引用されています.
この本のpp.266-270に「Moving sources of heat」という章があり,ここに下記9種類の熱源移動モデルの話が記載されています.
(本筋とは関係ないですが,J.C.Jaegerという書き方が多くて名前がよくわからないのですが,John Conrad Jaegerとおっしゃるそうです.)
- The moving point source
- The moving line source(steady conditions)
- The moving plane source(steady conditions)
- A moving point source in a rod which loses heat by radiation
- A moving point source in a thin sheet which loses heat by radiation
- A point source moving on the surface of a slab
- The infinite strip source -b<x<b, -∞<y<∞ in the plane z=0. Heat is supplied at the rate Q per unit time per unit area over the strip, and the surrounding medium moves across it with velocity U in the direction of the x-axis
- The infinite strip source of Ⅶ with its plane inclined at an angle θ to the x-axis.
- The rectangular source -b<x<b, -L<y<L in the plane z=0. Heat supply at the rate Q per unit time per unit area.
例えば,切削加工関係では以下のように各モデルが使われています.
- 「切削熱による加工物の温度上昇について(第1報)」ではⅡ
- 「切削工具寿命の解析的予測に関する研究 (第3報)逃げ面摩耗痕の形状と応力状態」ではおそらくⅡ
- 「切削熱の影響(その6) 6. 刃先温度の計算」ではⅦ
- 「切削工具の耐熱き裂性に関する研究(第1報)旋削における過渡的切削温度の理論解析」ではⅨ
- 「フライスの刃先温度に関する研究 : 第1報, 刃先温度測定法について」ではⅨ
Ⅱの「The moving line source(steady conditions)」は,2次元切削において加工点を熱源としたときの工作物の温度分布の計算に使われたりしています.
Ⅱの温度分布の数式を以下に示します.
これはXYZ座標上において,Y軸に平行な線熱源が原点を通るように存在していて,媒体がX軸方向に速度Uで移動している条件下における,定常状態での温度分布を示しています.
そのため,Y軸方向から眺めると,2次元平面内での温度分布に見えるので,2次元切削での温度解析で用いられています.
\( v = \cfrac{q'}{2 \pi K}e^{\cfrac{Ux}{2 \kappa }}K_{0}[\cfrac{U(x^2+z^2)}{2 \kappa}] \)
\( v \): 温度
\( q' \): Y軸に沿った単位長さ単位時間当たりの熱源の発生熱量
\( K \): 熱伝導率
\( U \): X軸に沿った熱源の移動速度
\( \kappa \): 熱拡散率
\( K_{0}(x) \): 第2種の変形ベッセル関数
\( \kappa = \cfrac{K}{\rho c} \)
\( \rho \): 密度
\( c \): 比熱
数式中に含まれる第2種の変形ベッセル関数\( K_{0}(x) \)というのが非常にややこしいです.
以下に示します.
\( K_{0}(z) = - \lbrace ln(\cfrac{z}{2}) + \gamma) \rbrace I_{0}(z) +(\cfrac{z}{2})^2 + (1+\cfrac{1}{2})\cfrac{(\cfrac{z}{2})^4}{(2!)^2} + (1+\cfrac{1}{2}+\cfrac{1}{3})\cfrac{(\cfrac{z}{2})^6}{(3!)^2} + \cdots \)
\( \gamma \): オイラー定数
第2種の変形ベッセル関数\( K_{0}(x) \)の式中に含まれている\( I_{0}(z) \)は次式で求められます.
\( I_{0}(z) = \displaystyle \sum^{\infty}_{r=0}\cfrac{(\cfrac{z}{2})^{2r}}{r!\Gamma(r+1)} \)
次に,この\( I_{0}(z) \)に含まれているガンマ関数\( \Gamma(z) \)は次式で求められます.
\( \Gamma(z) = \displaystyle \int_0^\infty t^{z-1} e^{-t} dt \)
よって,ただでさえ簡単に答えが出ない数式が入れ子構造になって,さらに複雑になっていることがわかります.
この数式で数値計算を行う場合は,もうひとつ難しい点があります.
下表に示すように,熱源から離れる意味でxを増加させると,\( exp(x) \)と\( K_{0}(x) \)が大きいほうと小さいほうに桁が大きくなり,数値計算の桁数を急激に増やしてしまいます.
そのため,数値計算をしてみる人は,桁数を事前に増やしておくなどの処理が必要になるので,その点に気を付けてください.
| \( exp(x) \) | \( K_{0}(x) \) | |
|---|---|---|
| \( x \rightarrow 0 \) | \( exp(x) \rightarrow 1 \) | \( K_{0}(x) \rightarrow \infty \) |
| \( x \rightarrow \infty \) | \( exp(x) \rightarrow \infty \) | \( K_{0}(x) \rightarrow 0 \) |
それでは何らかの計算条件を設定して,どういったグラフになるのかを確認します.
被削材にはS45Cを想定し,熱伝導率\( K \)は44 W/(m·K), 比熱\( c \)は490 J/(kg·K),密度\( \rho \)は7840 kg/m3とした.
X軸に沿った熱源の移動速度は切削速度を用いて200 m/min(=3.33m/s)とした.
熱源の発生熱量は刃先での単位時間当たりの仕事量として\( q' = K_{c}V_{c}a_{p}f_{r} \)を用い,\( a_{p}f_{r}=1 \) mm2,比切削抵抗\( K_{c}=2000 \) MPaとした.
X軸方向の計算範囲は0mから1mとし,工作物の深さ方向には0mm,1mm,2.5mm,5.0mmの4種類を用いて計算を行った.

図 Vc200m/minでの温度分布の計算結果
(下段の図は温度上昇範囲0℃から0.2℃の範囲の拡大図)
X軸の位置は,熱源を通過した後の熱源との距離を示しています.
熱の伝わり方に遅れが生じるので,深さ1mmの位置では極大値が生じていることがわかります.
次に,切削速度を400m/minに上げた場合を計算します.

図 Vc400m/minでの温度分布の計算結果
(下段の図は温度上昇範囲0℃から0.2℃の範囲の拡大図)
切削速度が上がることで熱源での発生熱量が高くなったため,z=0mmでの最高温度が上昇しています.
また,z=1.0mmでの温度変化がX軸方向に引き延ばされたような形になっています.
これでひとまず,どういうグラフになるのかがなんとなくイメージできたかと思います.