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最終更新日:2020年10月29日

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L/Dと剛性の関係

ドリルやエンドミルの突き出し量の話をするときに,L/Dの値が使われますが,あれは剛性と具体的にはどういう関係にあるのでしょうか.
円柱の片持ち梁の計算式を使って考えてみたいと思います.

\(\displaystyle d = \cfrac{FL^3}{3 E I} \)

\(\displaystyle I = \cfrac{\pi D^4}{64} \)

\( d \): 片持ちはり先端の変位
\( f \): 片持ちはり先端の集中荷重
\( L \): 片持ちはりの全長
\( E \): ヤング率
\( I \): 断面二次モーメント
\( D \): 円柱の直径

上記2式を組み合わせると,次式が得られます.

\(\displaystyle d = \cfrac{64FL^3}{3 E \pi D^4} = \cfrac{64F}{3 E \pi} (\cfrac{L}{D})^3 \cfrac{1}{D} \)

上式を参考にすると,L/Dの3乗にコンプライアンス(=剛性の逆数)が比例することがわかります.
しかしながら,よくみると分母のDが1つ残っています.
ということで,以下のことが言えます.

■工具径が同じで,L/Dが異なる場合
L/Dの3乗でコンプライアンスが変化するので,L/D=3と,L/D=6を比較する場合,後者のコンプライアンスは8倍大きいことになります.
つまり,剛性が1/8になっています.

■工具径が異なっていて,L/Dが同じ場合
D=3とD=6を比較すると,後者のコンプライアンスは0.5倍です.
つまり,剛性が2倍になっています.

よって,剛性への影響を考えるときには,工具径が同じならL/Dで影響をみることができます.
しかしながら,比較対象に工具径が違うものが混じっているときは,工具径も加えて考える必要があります.
次に,円柱の根元の最大応力を基準として強度との関係を考えてみます.

\(\displaystyle \sigma = \cfrac{FL}{E Z} \)

\(\displaystyle Z = \cfrac{I}{D/2} = \cfrac{\pi D^3}{32}\)

上記2式を組み合わせると,次式が得られます.

\(\displaystyle \sigma = \cfrac{32FL}{E \pi D^3} = \cfrac{32F}{E \pi}\cfrac{L}{D}\cfrac{1}{D^2}\)

今度は分母にDの2乗が残っています.
これもさきほどと同じで,L/Dだけ見ていてもあんまり意味がありません.
ですので,L/Dは突き出し量のイメージを理解するためだけのもので,物理現象との関係性を正確には表していないのではないでしょうか.
ただし,正確には,ドリルやエンドミルの断面は円柱ではありません.
もしかすると,そこを考慮すると,L/Dで妥当な評価ができるようになるのでしょうか.



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