誤用が多い切削用語
一般的に正確に使われていないように感じる切削加工の単語を以下に示します.
単語を正確に使うにこしたことはないと思いますが,正確に使ったとしても周囲の人間が認識してないとあんまり意味ない気はしています.
各単語の意味はJISに倣っています.
- 「被削材」と「工作物」
JISB0170:1993では,「工作物」は「切削加工が行われる物.加工物.」と定義されて,「被削材」は「工作物の材料」と記載されています.
JIB0170:2020では,「工作物」は「切削加工中の物および切削加工で作られた物.加工物ともいう.」と定義され,「被削材」の定義は変化していません.
英語表記では「工作物」は「workpiece」,「被削材」は「workpiece material」とされています.
ここで考えたいのは「被削材」とは何を指すのか,という点です.
これは,「被削材」とは「加工される前の工作物の状態」を指すのか,「工作物を構成する物質の組成」を指すのか,という意味です.
「材料」の定義は広辞苑によると「①加工して製品にする,もとの物.原料.」と書かれています.
「material」の定義はOXFORD wordpowerによると「a substance that can be used for making or doing something」と書かれています.
ここからでは,「被削材」という単語に形状の情報が含まれるのかどうかが読み取れません.
ここで,JISB0170にも記載されている「被削性指数」に着目します.
JIB0170:2020では,「被削性指数」は「種々の被削材の被削性を数値で表したもの」と定義されています.
被削性指数は材質による削りやすさを示す指標であることから考えると,ここから「被削材」は「工作物を構成する物質の組成」つまり「工作物の材質」を意味していると考えることができます.
しかしながら,実際には混同して使われているので「工作物」のことを指して「被削材」と言っている場合があります.
例えば,「この被削材の材質はなんですか」と言われることがありますが,これは「この工作物材質の材質はなんですか.」という意味になり,若干おかしなことを言っています
- 「ツールホルダ」,「ホルダ」および「アーバ」
TES4004によると,この3つの関係としては,「ツールホルダ」が上位概念で,「ホルダ」と「アーバ」を含んだ意味になります.
「ホルダ」は,「加工工具又はツールアダプタを保持する部分が凹形状のもの」とされており,具体的には,ストレートシャンクのエンドミルやドリルを保持するようなツールホルダを指します.
「アーバ」は,「加工工具又はツールアダプタを保持する部分が凸形状のもの」とされており,具体的には,刃先交換式のフライスカッタを保持するようなツールホルダを指します.
大体,3つの単語ともに適当に使われているような気がします.
- 「工具経路」,「加工パス」および「工具パス」
切削加工時の切削工具の移動軌跡を何と呼ぶのが正しいのか,いつもよくわからなかったのですが,JISB0181では「工具経路」が「切削工具の特定の点によって描かれる経路」と定義されています.
英語では「tool path」だと書かれているので,「ツールパス」と呼称するのもおかしくはないですが,日本語として記載する場合は工具経路が正しいと思います.
- 「切削抵抗」と「切削力」
JISB0170によると,
「切削抵抗」は,「切りくず生成の際,工具が工作物から受ける力」(Cutting resistance).
「切削力」は,「切りくず生成の際,工具が工作物に及ぼす力」(Cutting force).
となっており,両者は大きさが同じで,方向が逆のベクトルの関係性にあります.
あんまり意識して使っていないような気がしていますが,ベクトルの向きが逆だということは覚えていてもいいと思います.
個人的には,単純に「切削時に生じる力の大きさ」のみを指したい場合,英単語ではCutting forceでいいのかどうかが気になっています.
- 「マイクロチッピング」,「チッピング」,「欠損」および「破損」
単語の意味は以下のような順になっていて,順番に切削加工への影響が大きくなります.
ごく微小な欠け→微小な欠け→大きな欠けで切削が困難→刃部やチップ全体に及ぶ破壊で切削不能
ただし,具体的にどのくらいの大きさで名称が変わるのかはわかりません.
- 「切削条件」と「加工条件」
切削条件:主として数字で表現できる切削加工の諸条件
加工条件:切削条件に加えて,切削油剤などの数字で表現できない他の要因も含めたもの
よって,加工条件のほうが切削条件よりも広い意味を持ちます.
- 「同時切削刃数」
切削加工中に工作物と工具が接触しているとき,同時に何枚の刃先が切削を行っているか,というとき,結構よくわからない単語が使われていますが,この単語を使うのが正しいようです.
超硬工具用語集でもブローチ用語のところにしか同単語は記載がないので,フライス加工でも使えるのかどうかは疑問でした.
しかしながら,J-STAGEで「同時切削刃数」を検索すると,フライス加工でも記載があったので,使っても問題なさそうでした.
- 「刃数(はかず,はすう)」
どちらの読み方が正しいのかといえば,「はかず」が正しいようです.
- 「まる」と「ファイ」,「パイ」
直径を示す図面記号として「φ」というのがあります.
もともとは丸に棒を挿すことで直径を示す記号であって,「ギリシャ文字のファイ」を意味しているわけではなく,ただ単に形が似ていたから「ギリシャ文字のファイ」で代用していただけのはずです.
そのため読み方は「まる」がもともと正しかったはずです.
私自身も学生の時に,読み方を指導された覚えがあります.
ただし,これをファイと読む人があまりにも多かったためか,JIS Z8317-1でも「ファイ」という読み方が併記されるようになったそうです.
実際,最近では,「まる」と呼んでいる人に会った覚えはありません.
その意味では,結果的に誤用ではなくなったのですが,なんとなく複雑な気持ちになりました.
パイと呼んでいる人もいますが,あれはたぶんファイがなまったのか,ファイの聞き間違いを覚えたか,直径→円→円周率の連想でパイ(π)と呼んでいるのかのどれかだと思います.
- 「切りくず」と「切り屑」,「切粉」
JIS B 0170では「切りくず」が「切削作用によって工作物から取り除かれた工作物の小片」として定義されています.
切削加工では切りくずを生み出すことで製品が完成するし,切りくずから加工の良否もわかるのだから「切り屑」と書くのは「切りくず」に対して失礼である,みたいな文章が書いてある本があった気がします.
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