切削加工の専門書と論文のリストとオススメ
最終更新日:2023年10月14日

戻る

同時切削刃数の計算方法

エンドミルを使うときに同時切削刃数を気にする場合があります.
その影響を正確にとらえたい場合は,切削面積を計算する必要がありますが,その計算はめんどくさいです.
同時切削刃数を簡易的に計算する方法があれば多少は役に立つことがあるかもしれません.
論文にも同時切削刃数の計算式が載っていることがありますが,たまに変なのがあります.
どれが正しいのかはご自分で判断してください.

同時切削刃数の基本式は次式になります.

\( Z_{e} = \lceil \cfrac{ \theta_{w} + \theta_{t} }{ \theta_{p} } \rceil \)

\( Z_{e} \):同時切削刃数
\( \theta_{w} \):工作物側の円弧角
\( \theta_{t} \):工具側の円弧角
\( \theta_{p} \):工具のピッチ角

天井関数を組み込んであるので,小数点以下を切り上げることになります.
この問題の簡単なイメージとしては,小学生か中学生の頃の算数の問題に出てくる電車が駅を通過する問題に似ています.
工作物という駅を,切れ刃という電車が通過するときに,それがピッチ何個分に相当するかを計算しているだけです.
このままだと計算できないので,\( \theta_{w} \)と\( \theta_{w} \)を計算する方法が必要です.

\( \theta_{w} \)は,工作物側に形成されている円弧角を示し,肩削りにおいては次式で得られます.

\( \theta_{w} = \arccos( \cfrac{ R_{t} - a_{e} }{ R_{t} } ) \)

\( R_{t} \):工具半径
\( a_{e} \):半径方向切込み深さ

計算しているのは,工作物側に生じている円弧の始点と終点に対して,工具中心から線を引いたときに,その2本の線の狭角にあたります.
当然ながら,センタカットでは違う計算が必要になります.

次に,\( \theta_{t} \)は,切削加工中において,ある1点を1枚の切れ刃全体が通過するのにかかる回転角を示します.

\( \theta_{t} = \cfrac{ a_{p} \cdot \tan( \theta_{h} ) }{ R_{t} } \)

\( a_{p} \):軸方向切込み深さ
\( \theta_{h} \):ねじれ角

\( \theta_{p} \)は\( 2 \pi \)を刃数で割れば得られます.
不等ピッチでも,とりあえずこれで計算すれば,そこそこの計算結果になると思います.

\( \theta_{p} = \cfrac{ 2 \pi }{ Z } \)

\( Z \):刃数

さきほど示した式に\( \theta_{w} \)と\( \theta_{t} \)を代入すると次式が得られます.

\( Z_{e} = \lceil \cfrac{ \arccos( \cfrac{ R_{t} - a_{e} }{ R_{t} } ) + \cfrac{ a_{p} \cdot \tan( \theta_{h} ) }{ R_{t} } }{ \cfrac{ 2 \pi }{ Z } } \rceil \)

この計算式を見かけることはほとんどないと思いますが,その理由は,あまり意味がないからだと思います.
同時切削刃数が同じ加工であっても,複数の刃がどのくらい重なっているかによって,切削抵抗は大きく変動するためであり,その影響はもっと詳細な計算を必要とします.
なので,計算方法をここまで簡素化してしまうと,解析の役に立たないことが多いと思います.

その中で,もう少しうまく使おうとするのであれば,天井関数を外したほうがいいです.

\( Z_{e} = \cfrac{ \theta_{w} + \theta_{t} }{ \theta_{p} } = \cfrac{ \arccos( \cfrac{ R_{t} - a_{e} }{ R_{t} } ) + \cfrac{ a_{p} \cdot \tan( \theta_{h} ) }{ R_{t} } }{ \cfrac{ 2 \pi }{ Z } } \)

天井関数を外して計算した場合,小数点以下は,刃同士の重なりの大きさを示します.
0.1や0.2程度の小数点以下であれば,複数の刃はあまり同時には切削していないことになります.
0.8や0.9程度の小数点以下であれば,複数の刃がほとんど同時に切削していることになります.
このように,小数点以下の数値を見ることで,同時切削刃数の影響をもう少し細かく見ることができるようになります.

エンドミルのようなねじれ角の大きいフライス工具であれば,ねじれ角の項は必要です.
その一方,刃先交換式フライスカッタのようなねじれ角の小さいフライス工具では,ねじれ角の項を省略しても影響は小さいです.
よって,計算がめんどくさければ,次式で計算しても,それなりの計算結果は得られると考えます.

\( Z_{e} = \cfrac{ \theta_{w} + \theta_{t} }{ \theta_{p} } = \cfrac{ \arccos( \cfrac{ R_{t} - a_{e} }{ R_{t} } ) }{ \cfrac{ 2 \pi }{ Z } } \)



戻る