科学のパラダイムと切削加工
「科学のパラダイム」といっても,何を言っているのかわからないと思います.
2007年にJames Nicholas Gray氏が「The Fourth Paradigm: Data-Intensive Scientific Discovery」において提唱した概念らしく,意味としては「科学研究を進める方法」だと思います.
以下に,科学のパラダイムを発達順に示します.
ついでに,切削加工との関連についても併記しています.
あらためて分類を見てみると,自分が何かの問題を解決したいときに,どの方法をとるべきかを整理するのに役立つと思います.
- 経験科学
経験的事実や現象を対象として実証的な方法によって研究を進める方法.
工具寿命方程式やNATOCOの式といった実験式は,経験科学によって生み出されています.
- 理論科学
基礎方程式を組み立てて,そこから数式として理論を作成して研究を進める方法.
切削理論で出てくる数式は,理論科学によって作られており,変数のいくつかを実験式によって補う形になっています.
- 計算科学
基礎方程式や理論式を用いた数値計算によって研究を進める方法.
切削加工の場合,切削シミュレーションが難しいので,計算科学による成果はあまり見たことはないです.
分子動力学を使った切削シミュレーションは見たことあるので,それはここに該当すると思います.
- データ科学
統計や機械学習を用いて大量のデータから法則を見出すことによって研究を進める方法.
切削加工の場合は変数が多すぎるのと,切削シミュレーションが完成していないことを考えると,この段階以降での研究が必要なのかもしれないです.
ただし,変数が多すぎるので,まともなデータベースが存在しないのではないかとも思います.
切削工具メーカのカタログ情報をデータベースに用いるカタログマイニングという研究を見たことがあります.
- AI科学
仮説の生成をAIが行い,実験によるデータ収集をロボットが行うことで,研究を進める方法.
理化学研究所の高橋恒一氏が2016年には提唱していた概念で,生命科学研究の分野では一部実用化されているとのこと.
最近は工作機械の自動化と無人化も進んできているので,こういった研究が可能な段階に近づいているのかもしれないです.
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