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最終更新日:2022年11月01日

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切削工具と鉛筆削り

切削工具のことを,切削工具を知らない人に説明するときに,みなさんはどうされていますでしょうか.

切削工具の中で最も知名度が高いものはドリルだと思います.
切削加工に従事していない人には,エンドミル,フライス,旋削,転削あたりの単語はまず理解されませんが,ドリルだけは通じます.
なので,私はドリルみたいな金属を削るやつを使っている,ということを話してお茶を濁すことが多いです.

でも,ドリルを知っている人でも,実際にドリルを自分で使ったことがあるかというと,その割合はあまり高くないと思います.
切削工具を知らない人でも,実際に使ったことがある割合が高いのはエンドミルだと思います.

その理由は,エンドミルが鉛筆削りの中に入っているからです.
消しゴムくらいの大きさのほうの鉛筆削りではなく,ハンドルを回して使うほうのやや大きいサイズの鉛筆削りです.
あれを分解すると,中からエンドミルにしか見えない部品が出てきます.
以下に,手元にあった鉛筆削りから,取り出して撮影した写真を示します.

pencil_sharpener
図 鉛筆削りから取り外したハンドル部分

このエンドミルに似た部品が,鉛筆の先を削ってテーパ形状に仕上げています.
金属加工のエンドミルに比べると,かなりの強ねじれになっていますが,エンドミルだと思います.
強ねじれにして,刃が常に鉛筆に接触するようにして,ハンドルにかかる負荷を一定にさせることが目的なのだと思います.
もし,ねじれがない直刃の設計にすると,ハンドルの負荷が不連続に変わるようになってしまうのと,テーパ形状の加工が難しくなると思います.
実際,工具メーカの日進工具は創業してから最初の1年は,ハンドル式鉛筆削り用カッタを作っていたそうです.

また,鉛筆削りでは,テーパ形状の加工をするために,鉛筆に対してエンドミルを傾けつつ,公転運動をしながら自転して加工しています.
上図でも,上図左側から入ってくる鉛筆に対して,エンドミルが傾いていることがわかります.
よって,工作機械の中でも,5軸加工機や複合加工機でないと再現できない動きをしています.
そういう意味では,エンドミルでの5軸加工をほとんどの人が実施したことがある,ということになるのではないでしょうか.


*参考 後藤勇,高収益経営を実現する 日進工具のニッチトップ戦略,日刊工業新聞社,2015年,pp.14-15



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