生データの価値
「生データ(raw data)」というのは,何らかの測定対象をセンサで測定し,それを数値データとして保存する以外に手を加えていない測定結果を指します.
つまり,測定を行った際に手に入る最も純粋な情報であり,最も価値が高いものです.
測定結果から計算された平均値や,デジタルフィルタを適用した後のデータは生データではありません.
測定条件を様々に変更して測定を行い,多くの測定結果を集めた場合,そのデータをまとめる場合には,当然ながら生データを処理した結果を用いるはずです.
そうすると,生データを保存しておくことに意味がないように感じられるかもしれません.
だからといって,生データを加工した結果のデータだけを保存して,生データを保存しないというのは良くないと思います.
理由は3つあります.
- 信頼性確保のため
そもそも測定を行った結果に対しての,信頼性確保のために,生データを保存しておかないといけないはずです.
生データが一切存在しない場合,その報告書が正しいものであり,偽造データを使っているわけではない,という保証ができなくなってしまいます.
- 処理のやり直しができない
生データを処理した結果のデータからは,当然,生データを復元することはできません.
そのため,あとから生データを確認することができなくなり,生データの処理内容が不適切だった場合に,再測定が必要になってしまいます.
このような場合を防ぐための保険として,生データの保存が必要です.
- 処理内容の確認に使える
生データの処理をソフトウェアや他人に任せた場合,処理方法がブラックボックスのようになってしまう場合があります.
このとき,本来実施すべき処理方法が明確なのであれば,生データを処理した結果が適切かどうかを自分で確認することができます.
例えば,面粗さ測定機での測定結果としては,RaやRzが主に使われますが,その計算処理を正確に理解している人はどのくらいいるでしょうか.
生データに対する処理を自分で実施してみると,その処理内容がよくわかります.
これは,処理結果の数値が持つ物理的な意味の理解に役立ちます.
面粗さ測定機では,ハイパスフィルタがかかった面粗さ曲線ではなく,測定断面曲線が生データにあたります.
ですので,RaやRzといった処理結果だけでなく,測定断面曲線を保存しておくとよいです.
測定対象を測定するという行為に対して,可能な限り手を加えずに得られるデータを持っておくのが良いですが,唯一許される処理があります.
それは,アナログフィルタです.
アナログフィルタは,電気信号を量子化する前に適用するもので,センサの周波数応答以上の周波数成分を取り除くなどの目的で使用されます.
つまり,測定対象がデジタル化された時点で,既に適用されていないといけないものなので,これは仕方ないです.
しかしながら,この場合も,できればアナログフィルタが無い条件でのデータを取っておくことが望ましいです.
そうすることによって,アナログフィルタの有無による影響と,その適用の妥当性の確認ができるからです.