計測・信号処理システムの
測定分解能と周波数帯域の考え方
計測・信号処理システムを組むときに,測定精度や周波数特性をどのように考えればいいのか,というのが本を読んでいてもいまいちよくわからなかったので,個人的に理解した点をまとめます.
まず,計測・信号処理システムというのは,ざっくり書くと,
センサ,アンプ,アナログフィルタ,A/Dコンバータ,PC,デジタルフィルタの順番で機能します.
この各々の段階で,測定精度や周波数特性が影響を受け,計測・信号処理システム全体としての測定精度や周波数特性が定まります.
その各段階での影響を以下に書いていきたいと思います.
- センサ
センサは,測定対象の物理量を他の物理量に変換します.
基本的には,変換後の物理量は電気信号に関係のあるものになります.
例えば,ひずみゲージなら,ひずみを電気抵抗に変換します.
- アンプ
センサから出力される信号は小さいので,それを増幅します.
アンプは,増幅器を意味する「amplifier」の略称です.
大体,0Vから10Vや,-10Vから10Vの範囲に増幅します.
- アナログフィルタ
増幅された電気信号は,まだアナログ信号です.
これに対して,特定の周波数帯域を通したり消したりするフィルタをアナログフィルタといいます.
- A/Dコンバータ
アナログ信号をデジタル信号に変換します.
この変換を量子化といい,これで測定結果としてPCに保存することができます.
- デジタルフィルタ
測定結果として得られたデータにかけるフィルタをデジタルフィルタといいます.
- 測定精度
測定精度に影響するのは,測定分解能です.
分解能というのは,変化を観察できる最小の大きさを指します.
大体,測定分解能は,測定したい値の大きさの10分の1程度は必要とされています.
センサには仕様で分解能が定められています.
また,これとは別に,センサの設定で,測定範囲を変更したりすることができるものもあります.
ここで,必要な測定範囲に限定すると,A/Dコンバータとの兼ね合いで測定精度を向上させることができます.
アンプによって,測定範囲の最小と最大に対して,電圧(0Vから10Vや,-10Vから10V)が割り当てられます.
A/Dコンバータは,仕様にビット数というのがあり,これが測定精度に関係します.
例えば,アンプの電圧範囲が0Vから10Vで,ビット数が12だと,10/(2^12)が電圧の分解能になります.
この10のところに,センサの測定範囲が代入されると,測定分解能になります.
センサの仕様で定められている測定分解能と,測定範囲をビット数で割って得られた測定分解能で,悪いほうの値が計測・信号処理システム全体としての測定分解能になります.
- 周波数帯域
センサには仕様で周波数帯域が決まっています.
まず,この周波数帯域を超えるような周波数はどうやっても測定できません.
アナログフィルタのところに来ているアナログ信号の段階では,センサの周波数帯域が影響しているだけで,エリアシングなどが発生していないため,周波数の情報は正確です.
アナログフィルタの主な用途には,ノイズ除去,エリアシングを引き起こす周波数帯の除去があります.
測定系に特定の周波数でノイズがのっている場合は,バンドエリミネーションフィルタを使って,それを除去することができます.
A/D変換時にエリアシングが発生すると,ナイキスト周波数で折り返しが発生し,測定結果において周波数の情報がおかしくなります.
これを防ぐためには,ナイキスト周波数(サンプリング周波数の半分の周波数)でローパスフィルタをかける必要があります.
ただ,ややこしいですが,エリアシングによって周波数の情報がおかしくなるだけで,測定結果にはセンサの周波数帯域に含まれるすべてが含まれています.
測定対象の本来の情報が復元できないだけです.
A/Dコンバータではサンプリング周波数を設定します.
サンプリング周波数の説明で,ナイキスト周波数がよく説明されますが,あれは正確に理解しないと誤解を生みます.
ナイキスト周波数で測定できるのは理論上の話であって,実際には,測定対象の周波数との位相を考える必要があります.
また,急激に変化する値を測定したい場合は,その急激な変化の間に,いくつの測定点を用意できるかが重要です.
よって,測定対象の周波数の2倍あればいいというのは誤解であり,できる限りサンプリング周波数は高くするべきです.
サンプリング周波数が高すぎて発生する問題は,同時に測定可能なチャンネル数に制限が発生する場合があることと,データ容量が重くなること以外にはないはずです.
デジタルフィルタは,特定の周波数帯をカットしたりするので,アナログフィルタと同じ役割を持つように感じられますが,これらは同じではありません.
最大の違いは,エリアシングが生じている信号に対してフィルタをかけるのかどうか,つまり,A/Dコンバータの前後のどちらにフィルタがあるのかが影響しています.
デジタル信号に変換されてしまっていると,エリアシングが発生し,周波数の情報がおかしくなった信号が含まれている可能性があります.
この信号を除去するのにデジタルフィルタを使うことはできますが,そのときに指定している周波数は,その信号が本来持っている周波数ではない可能性があります.
よって,デジタルフィルタは,測定結果の整理に使うことはできますが,本来の意味での,測定対象がもつ周波数帯域の情報の制御はできません.
よって,測定結果の周波数帯域の情報を信用できるようにして測定したい場合は,サンプリング周波数を可能な限り高く設定し,そのサンプリング周波数の半分の周波数でアナログのローパスフィルタを入れるのが正しいと思います.
アナログフィルタを使わずに,エリアシングの有無を確認するには,たぶん,サンプリング周波数を変えて測定した結果を2つもってきて,両方のパワースペクトルを見比べればいいと思います.
そうすると,エリアシングで生じているピークの位置が,サンプリング周波数によって変化するはずです.
ただし,その2回分の測定に同じ情報が含まれているといえるくらいの再現性が必要です.
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