切削加工の専門書と論文のリストとオススメ
最終更新日:2020年09月20日

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同一分野の専門書を複数買う理由

結論から先に述べますと,切削加工に限った話ではないと思いますが,「切削加工」と名のついた本で,一冊ですべてがわかるような本は存在しません.
それがゆえに,同じ分野の本をたくさん集める必要があります.

とりあえず,切削加工に限定して,そうなってしまう理由をいくつか挙げたいと思います.

・切削加工の分野は,はっきりとした理論が存在しない.
例えば,流体力学でのナビエストークスの式のような,電磁気学でのマクスウェル方程式のようなものが存在しません.
いわゆる切削加工の理論式は存在するのですが,その解を得るために,大体が実験で得られる係数を必要とします.
それがゆえに,その係数の同定に使った切削条件範囲での内挿であれば,ある程度の妥当性が得られるのですが,外挿では使えません.
よって,工具,被削材,切削条件,の組み合わせが生み出す結果が予想できないことが大半です.
予想ができないので,結局は,各工具,各被削材,各切削条件で,発生した多くのケースバイケースを学び,それらを参照して問題解決にあたることになります.
例えば,被削材では,鋼,ステンレス,マグネシウム,鋳鉄,チタン,CFRPなど,材質ごとに全く性質が異なるため,適切な工具と切削条件の組み合わせも全く異なります.
通常は,ここまでケースバイケースだらけだと,とても対処できる問題ではないと思います.
しかしながら,切削加工という加工方法自体は非常に一般的で,大企業だけでなく,町工場のような中小企業でも行われており,携わっている人の絶対数は多いです.
また,その歴史も古いため,昔からのノウハウが蓄積されており,それらを用いて対処されてきているのが,切削加工という分野になります.

・実践的な知恵と,理論的な知識
さきほど,昔からのノウハウが切削加工では使われていると言いましたが,そのノウハウが絶対唯一の答えではない場合もあります.
ノウハウは一般的に言われているものだけでなく,個人に属しているものがあり,それらはその個人の経験から導き出されている場合が多いです.
その人が切削加工の全てを知っているならそれでもいいですが,全てを知っているわけではないので,そのノウハウは複数の解のうちの1つに過ぎない場合があります.
切削加工では,工具や切削条件などの変数が色々あるので,そのどれを操作して問題を解決するかという選択肢がたくさんあり,その中から最も妥当な解を見つける必要があります.
そこで重要なのは,対処しようとしている問題の根本的な原因がなんなのかを,ノウハウが意図していることから考え,それに対処する方法を理論的に考えることです.

例えば,逃げ面摩耗が大きくなって工具寿命に至る場合に,一刃あたりの送り量を増やすと寿命が延びたとします.
まず考えられるのは,もともとの一刃あたりの送り量が非常に小さく,刃先の稜線の丸みより小さくなっており,工作物を切削しているというよりは擦っていて逃げ面摩耗が進行している可能性です.
この場合は,切れ刃稜線の丸みと一刃あたりの送り量を比較してみれば,それが原因かどうかわかります.
この関係性が原因であった場合は,刃先の切込み角を変更して,実一刃あたりの送り量を大きくするなどの対策をとることも可能です.

他の原因としては,工具の移動量としての切削距離ではなく,切削工具と工作物が接触している距離を示す実切削距離が短くなったことです.
この場合は,実切削距離を基準として工具寿命を管理してみると,あまり差が出てこないかもしれません.
この関係性が原因であった場合は,低速大切込みにして,1つの製品を加工しきるまでに必要な切削距離そのものを短くする対策をとることも可能です.

こういった考え方を身に着けるには,実践的な知恵としてのノウハウを勉強しつつ,それを根本的に理解するための,理論的な知識も勉強する必要があります.
しかしながら,両方が1冊にまとめられている都合のいい本はあまりないので,実践的な本と,理論的な本の両方を買って読む,ということになります.

・切削加工は分野横断的
切削加工は,工具を工作物にあてて,工作物を除去することにより,所望の工作物形状を得る加工法になります.
これに関連する分野を思いついた分だけ羅列しただけでも以下のようになります.

材料力学:工具変形,工作物変形,ひずみ速度,塑性変形
破壊力学:工作物の亀裂進展,工具の破壊形態
熱力学:工具熱変形,工作物熱変形,熱伝達
流体力学:切削油の挙動,切りくず搬送
化学:切削油の化学反応
材料組織:被削材の特性,コーティング,工具材質の特性
トライボロジー:摩擦,工具摩耗
振動工学:びびり振動,動特性

これに加えて,切削現象を測定するための測定機器や計測工学についての知識を習得する必要があります.
そうなると,そもそも「切削加工」だけを勉強していても,根本的な知識が足りないということになるので,他の分野の本も同様に集める必要が出てきます.



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