剛性とコンプライアンスの使い分け
部材の変形のしにくさの指標には,一般的には「剛性」が使われています.
剛性の単位は「荷重/変位」となっています.
「コンプライアンス(compliance)」は剛性の逆数です.
そのため,コンプライアンスは部材の変形のしやすさの指標となっています.
単位は「変位/荷重」です.
日本語では柔性とも言うらしいですが,聞いたことがないです.
そもそもコンプライアンスも,企業の「法令順守」の話で使われることがほとんどで,剛性の逆数として聞く機会は少ないです.
一般的には剛性が使われていますが,コンプライアンスを使うと,ある状況下では良い点があります.
ここでは,それについて説明します.
まず簡単なモデルとして,直列ばねと並列ばねを用意します.
剛性\( K_{1} \)のばね1個と,剛性\( K_{2} \)のばね1個で,直列ばねと並列ばねを構成します.
このとき,系全体の剛性を\( K_{all} \)とすると,次式が成立します.
- 直列ばね:\( \cfrac{1}{K_{all}} = \cfrac{1}{K_{1}} + \cfrac{1}{K_{2}} \)より,\( K_{all} = \cfrac{K_{1}K_{2}}{K_{1}+K_{2}} \)
- 並列ばね:\( K_{all} = K_{1} + K_{2} \)
\( C_{1} = \cfrac{1}{K_{1}} \)
\( C_{2} = \cfrac{1}{K_{2}} \)
なので,
- 直列ばね:\( C_{all} = C_{1} + C_{2} \)
- 並列ばね:\( \cfrac{1}{C_{all}} = \cfrac{1}{C_{1}} + \cfrac{1}{C_{2}} \)より,\( C_{all} = \cfrac{C_{1}C_{2}}{C_{1}+C_{2}} \)
ここでN個のばねに話を拡張した場合で書き換えると下表のようになります.
表現 | 直列ばね | 並列ばね |
---|---|---|
剛性 | \( \cfrac{1}{K_{all}} = \sum_{i=1}^{n} \cfrac{1}{K_{i}} \) | \( K_{all} = \sum_{i=1}^{n}K_{i} \) |
コンプライアンス | \( C_{all} = \sum_{i=1}^{n}C_{i} \) | \( \cfrac{1}{C_{all}} = \sum_{i=1}^{n} \cfrac{1}{C_{i}} \) |
次に,工作機械において切削加工を行う場合に,どちらのばねの状況が多いかを考えます.
主軸-ツールホルダ-切削工具の系,工作物-治具-テーブルの系を簡略化してモデル化する場合,直列ばねになるはずです.
各部材の剛性を使って,直列ばねの系全体を評価しようとした場合,剛性評価では計算がめんどくさいです.
また,部材を追加するほど,系の剛性は低下していきます.
そのため,何らかの部材の剛性\( K_{i} \)が系全体の剛性\( K_{all} \)にどのくらい影響しているかを調べるために,\(\cfrac{K_{i}}{K_{all}} \)を計算すると1を超えてしまい,意味が分からなくなります.
その一方,コンプライアンスで評価した場合,各部材のコンプライアンスの総和が,系全体のコンプライアンスとなります.
何らかの部材のコンプライアンス\( C_{i} \)が系全体のコンプライアンス\( C_{all} \)にどのくらい影響しているかを調べる式をつくると,次式が得られます.
\( \cfrac{C_{i}}{C_{all}} = \cfrac{C_{i}}{ \sum_{i=1}^{n}C_{i} } \)
上式より,直列ばねを評価する場合においては,コンプライアンスを使ったほうが理解がしやすいのではないかと考えます.
ただし,上記の考え方で片持ち梁の半径方向荷重に対するコンプライアンスを接続していく場合,下記2点が影響する点には注意が必要です.
- 各部材間での傾きによっても変位が生じること
- 加工点からの距離でモーメント荷重が変わるため,部材によって異なる大きさでモーメント荷重が作用すること