旋削加工における表面粗さが理論値と実測値で異なる原因と対策
経験的にはご存じとは思いますが,実際の切削加工において表面粗さが理論値どおりに出る状況は少ないです.
基本的には,表面粗さの実測値は理論値よりも大きくなります.
よって,表面粗さの理論値は,実測値がその数値以上にはほとんど良くならない指標,として使う姿勢が正しいです.
そして,その違いはどこから来るのか,ということをある程度理解しておいたほうが良いです.
主に,表面粗さは,工具摩耗,振動,構成刃先,ばりなど多くの要因によって悪化します.
そこで,このページでは,そこらへんの情報をまとめます.
「切削速度の切削に及ぼす影響 切削における表面仕上について」には非常に面白いデータが載っています.
まず,図4に同一工具(高速度鋼)で,炭素鋼S45C,ステンレス,チタンを切削速度15.24m/minで旋削加工したときの,\( R_{z} = \cfrac{f^{2}}{8R} \)の理論値との比較があります.
このとき,Rzの実測値/理論値は,S45Cでは約2.3,ステンレスでは1.4,チタンでは1.1から1.5となっています.
この差は,構成刃先の発生しやすさによるもので,構成刃先が生じにくいほど実測値と理論値は近い値として生じやすいと述べられています.
図7に,各材質で切削速度を上げていくと,表面粗さが良化していく様子が確認できます.
(図7の横軸の切削速度は単位がf.p.mでfeet per minuteであることに注意し,1fpm=0.3048m/minで換算してください)
「切削仕上面の粗さの改善とその対策」においては,上記論文に加えて,多くの要素が検証されています.
図15では,旋削工具のノーズRが大きくなった場合の,表面粗さの理論値と実測値との比較があります.
ノーズRが大きくなると表面粗さは良化するのですが,理論値との乖離が徐々に大きくなる,という傾向が示されています.
図16には前切れ刃角,図19ではチップブレーカ,図22ではすくい面粗さ,図27と図28には工作機械,による影響が示されています.
特に,図27と図28では,同一の加工を異なる旋盤で実施した場合,表面粗さの理論値が10μmであるのに対し,実測値は9μmから22μmの範囲であったことが示されています.
「精密旋削仕上げ面の粗さに関する研究(第1報) ダイヤモンド旋削における切削条件が仕上げ面粗さに及ぼす影響」では,工具材質にダイヤモンドを用いた結果が示されています.
図6に快削黄銅,図8に快削黄銅,アルミニウム,銅を加工したときの表面粗さが記載されています.
これらの組み合わせでは,理論値と実測値がほぼ一致することが示されています.
「工具摩耗と切削仕上面あらさ」では,旋削加工での表面粗さが送り目間の境界部の形状の影響を受け,それが工具摩耗によって変化することを示しています.
図3と図4が特に面白く,表面粗さが「前切れ刃の逃げ面摩耗幅と境界摩耗長さとの差」によって変化することが示されています.
また,この影響を逆手にとって,送り量を一定周期で変化させることで,境界摩耗を一様分布させることにより,表面粗さの改善が可能であることが示されています.
「ダイヤモンド旋削における傾斜切削による表面粗さの改善」には,送り目間の境界部の形状を傾斜切削で抑え込む方法が示されています.
これは,傾斜切削でつける角度によって,ばりが生じる方向を制御し,1回転後の切削でばりが除去される方向にばりを出す,という考え方です.
工具材質はダイヤモンドで,被削材は図5で無電解Ni-Pめっき,図6で無酸素銅,図7で黄銅となっています.
傾斜角ゼロの状態では,Rzの実測値/理論値は,無電解Ni-Pめっきで2.5,無酸素銅で2,黄銅で2.5となっています.
いずれも傾斜角によって表面粗さが改善できています.