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最終更新日:2024年03月17日

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切りくずのテンパカラーと酸化膜厚さ(炭素鋼)

切りくずの色から加工時の切削温度の予想をするという手法があります.
切りくずの色は,切りくず表面の酸化膜の厚さによる干渉色(テンパカラー)で決まります.
酸化膜の厚さは,加工条件によって変化する切削温度や冷却速度によって決まります.
そのため,切削温度そのものの推定は結構難しい問題です.
そこで,とりあえずの参考として,酸化膜の厚さとテンパカラーの関係を求めることにします.

参考にしているのは「テンパカラーの酸化膜厚さによる数量化について 切りくずのテンパカラーよりの切削温度の推定(第1報)」です.

上記文献の表2に示されているS15CとS45Cでの色見本諸元表を用います.
まず,表2と次式より,CIE XYZ色空間での3刺激値を取得します.

\( X = 0.003268 \sum \rho \lambda_{x} \)
\( Y = 0.003333 \sum \rho \lambda_{y} \)
\( Z = 0.003937 \sum \rho \lambda_{z} \)

上式は同文献中の式(1)に相当しますが,各式の係数に0.1をかけています.
これは「式(1)のとおりに計算すると,式(2)で得られる視感反射率Yが,表2中の視感反射率の10倍になり,文献中に矛盾が生じる」という問題を解消するために,勝手に追加しています.
あとは,この変更を追加すると,作成されるテンパカラーが同著者の「実用切削加工法」に示されている色見本表と近くなるので,この追加は正しいと判断しています.

次に,次式を用いてCIE XYZ色空間をNTSC RGB空間に変換します.
参考:色空間の変換(2) RGB-XYZ 変換

\( \begin{bmatrix} R \\ G \\ B \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 1.9100 & -0.5325 & -0.2882& \\ -0.9846 & 1.9991 & -0.0283 \\ 0.0583 & -0.1184 & 0.8976 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} X \\ Y \\ Z \end{bmatrix} \)

NTSC RGBに変換している理由は,私の使っている液晶画面では「実用切削加工法」に示されている色見本表と近くなったためです.
ここから考えると,液晶画面の仕様などによっては,これから表示する色見本は違う色に見えるのかもしれませんが,その場合は違う変換行列を使って色見本表を自分で作ってみてください.

文献中表2の色見本諸元表から作成した炭素鋼の酸化膜厚さとテンパカラーのRGB値の関係を以下に示します.
RGBの値は0から255の値をとりますが,次図では0から1に正規化した数値を表示しています.

RGB_steel
図 炭素鋼における酸化膜厚さによるテンパカラーのRGB値

上図の元データは酸化膜厚に対して離散的なデータになっています.
そこで,このRGB値の間において上図の実線で示したような線形補正を行い,連続的に変化する色見本を作成します.
ただし,RGB値が連続的な関数に従っているようには見えないので,この操作の妥当性は怪しいです.
しかしながら,似たような切りくずの色見本は他のサイトにも載っているので,ここでは連続的な色見本を作ってみます.
炭素鋼の酸化膜が\( Fe_{3}O_{4} \)単層であると判断できるのは100um以下とのことなので,その範囲だけで行います.

tempercolor_steel
図 炭素鋼における酸化膜厚さによるテンパカラー

これを使えば,加工条件を変更したときに,切削温度が上がったのか下がったのかくらいは判断できるのではないかと考えます.

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