切削工具に用いられる脆性材料の強度
切削工具の工具材料として用いられる脆性材料としては,超硬合金,セラミック,ダイヤモンド,CBNが挙げられます.
これらは脆性材料なので,強度の評価が難しく,三点曲げ試験による抗折力(Transverse rupture strength, T.R.S.,曲げ強さ)が強度の指標として用いられます.
この抗折力は引張強さに相当するとされているのですが,両者の値が同じというわけではないです.
この「相当」というのは,「延性材料における引張強さと,脆性材料における抗折力は,それぞれ同じような位置づけである」という程度の意味だと思います.
このページでは,そこらへんも併せて,切削工具に用いられる脆性材料の強度について調査した結果をまとめています.
- 超硬合金
「WC-Co超硬合金の抗折力と引張強度との関係」の図3や図6を見ると,抗折力は引張強さの1.4倍から1.7倍になっています.
「WC-Co系合金の引張り変形および破壊について」の図7においても同様の傾向を見ることができます.
これは,抗折力と引張強さでは応力が発生する領域の広さが違うことにより,引張試験のほうが欠陥が含まれる確率が高く,それによって,破壊が低い応力で発生することが原因のようです.
「WC-10%Co超硬合金の抗折力に及ぼす試験片の体積効果」にも,試験片が大きくなると抗折力が低くなる,という話が載っており,上記の話と矛盾はしないです.
- セラミック
「セラミック工具材料の材料強度学的特性」の図2に曲げ強さ(抗折力)の測定結果が記載されています.
「セラミック工具材料の物理的性質 抗折力試験における寸法効果」の図6より,試験片の体積が大きくなると抗折力が低くなっています.
試験片の体積によって抗折力が変わっているので,セラミックでも抗折力よりも引張強さのほうが低くなると予想できます.
ただし,今のところ,セラミックでの抗折力と引張強さの関係を直接示す資料は見つけられていません.
少し話は変わりますが,「最近の歯科用セラミックスの曲げ強さに及ぼす試験方法の影響」では,試験方法によって曲げ強さが異なる,という話が記載されています.
- ダイヤモンド
「気相合成ダイヤモンド薄板の強度評価」の図4に,三点曲げ試験で評価したCVDダイヤモンドの曲げ強さが記載されています.
「ダイヤモンドの性質」には,「強度の実験値はばらつきがいちじるしい.これは一部には強度試験がむずかしいことによっているが,またダイヤモンドが個体によって欠陥,包有物,不純物がいちじるしく違うことの反映でもある.小粒(ないしは小さい荷重面積)のダイヤモンドの方が大粒(ないしは広い荷重面積)のダイヤモンドよりも強度が高いのが普通である.すなわち,サイズ効果がある.」という記載があります.
また,同資料にはダイヤモンドの引張強さは,1.3×1010 dynes/cm-2から4×1010 dynes/cm-2という参考データが記載されています.
これはPaに単位を変換すると,1.3GPaから4.0GPaになります.
よって,ダイヤモンドにも,超硬合金やセラミックと同様に,試験片体積の増加によって抗折力が低くなる傾向があるのではないかと考えることができます.
ただし,今のところ,ダイヤモンドでの抗折力と引張強さの関係を直接示す資料は見つけられていません.
また,抗折力と引張強さの関係は,バインダの有無でも変わるのではないかと考えています.
つまり,単結晶と多結晶でも異なるのではないかと推定しています.
- CBN
「CBN砥粒の研削性能に関する研究(第1報) 圧縮試験における破壊特性」の図6に圧壊試験から求めた引張強さが記載されています.
今のところ,CBNでの抗折力と引張強さの関係を直接示す資料は見つけられていません.