切削加工の専門書と論文のリストとオススメ
最終更新日:2023年10月18日

戻る

振動切削・揺動切削

最近,工作機械メーカが振動切削や揺動切削という名前のついた機能を付けています.
ここでは,振動切削や揺動切削について調べた結果についてまとめます.

振動切削や揺動切削では,切削速度や送り速度以外の振動を刃先と工作物間の相対運動に追加しています.
その目的は大きく分けて2種類に分けられ,振動方向や周波数による違いがあります.
以下では主に旋削加工を想定した説明を行います.

まず,目的ですが,切削現象そのものに影響を与えるという目的と,切りくず分断という目的の2種類があります.

切削現象そのものに影響を与える場合,超音波振動切削や楕円振動切削といった「振動切削」と呼ばれるものが挙げられます.
これらの振動は,切削速度よりも早い振動速度をもつ振動を加えます.
切削抵抗の減少や,加工面性状の良化といった効果を生じさせます.
切削速度ベクトルとは逆方向に刃先が移動し,刃先が工作物から離れるので,これも切りくず分断機能があります.
超音波振動切削では切削速度方向に振動を与え,衝撃を加えるような形で切削をするようです.
楕円振動切削では切削速度方向と背分力方向がなす平面内で楕円軌道を描く振動を与えます.
楕円振動切削では,すくい面上での摩擦力の方向を反転させることが主たる目的のようです.
これらのように,切削現象そのものに影響を与える場合は,振動切削と呼ばれる傾向にあるように思います.
振動切削では高周波の振動を与える必要があり,特殊な装置が必要になります.

その一方,切りくず分断だけが目的の場合は,揺動切削と呼ばれる場合が多いように思います.
低周波振動切削というような名称がついている場合もあります.
揺動というのは「揺れ動く」という意味を持ち,周波数が低い振動のイメージがありますので,低周波振動切削も同じような意味なのだと思います.
こちらは,送り方向に刃先を動かすことで,刃先と工作物間に空転する瞬間をつくり,切りくずを分断します.
振動切削の場合は,切削速度に対して振動を加えていましたが,こちらは送り速度に対しての振動を加えるため,相対的に振動速度が遅くても刃先を工作物から離すことができます.
切込み量が増減するという意味では切削現象にも影響は与えますが,振動切削ほどの影響はないのではないかと推測します.
最近の工作機械に搭載されている機能は,揺動切削である場合が多いです.
これは,揺動切削は低周波の振動であるため,振動切削のような特殊な装置を必要とせず,送り軸を動かすだけで実現可能であるからです.
揺動切削を構成するもう一つの要素として,送り軸の運動を主軸の回転と同期させるというものがあります.
これによって,切りくずを分断させるための,刃先と工作物が離れる位置や回数を制御できるようになります.

では,旋削加工以外のフライス加工や穴加工でも振動切削や揺動切削は使われているのでしょうか.

フライス加工は,そもそも断続切削なので,振動切削や揺動切削の話はほとんど聞いたことがないです.

穴加工では,ステップ加工も広義の揺動切削と言えると考えます.
他に,牧野フライス製作所の最近の機能でGIブレーカ(注:ジーアイブレーカ)という切りくず分断機能があり,特許第5631467号の技術を使っているのではないかと思います.
ただし,この技術はドリルが送り方向に後退しない範囲で送り速度の増減を繰り返すらしいので,工具と工作物が離れているわけではないようです.

参考文献:

戻る