ワイブル分布と工具寿命
物体の破損確率の解析といえば,ワイブル分布がよく出てくるイメージがあります.
そうは言っても,切削の本ではあまり出てこないです.
よくわかっていないので,調べてみることにしました.
調べてわかったことについて以下にまとめます.
まず,ワイブル分布というのは,「W. Weibull, A statistical theory of strength of materials, IVB-Handl., No.151(1939)」で提案されたそうです.
「WALLODDI WEIBULL, A Statistical Distribution Function of Wide Applicability,J.Appl.Mech., Sep. 1951, 18(3),pp.293-297」にもワイブル分布の話が記載されています.
ここでは,後者の文献に書かれている導出過程を示します.
私の理解では,まず,累積確率密度が定義されます.
「ある母集団の個体に変数Xが割り当てられている場合、Xの分布関数Fxは、X≦x を満たす全ての個体の数を、個体の総数で割ったものとして定義される。この関数はまた、X の値がx以下である個体を無作為に選ぶ確率 P を示すものであり,」という一文ののち,次式が定義されます.
\( P(X \lt x) = F_{(x)} \)
これは累積確率密度のことを示しています.
そして,その累積確率密度を次式で定めています.
これは「xまでに故障や破壊が発生する確率」を示します.
\( F_{(x)} = 1-e^{-\psi(x)} \)
この形にすることで,\( F_{(x)} \)の特性を持つリンクn個からなる構造の強度が最弱のリンクを起点に破壊するという最弱リンクモデルにおける「xまでに故障や破壊が発生しない確率」が次式で得られます.
\( (1-P)^{n} = e^{-n\psi(x)} \)
ここで,n個のリンクにおける累積故障確率を\( P_{n} \)と定義すると,次式が成り立ちます.
\( 1-P_{n} = (1-P)^{n} = e^{-n\psi(x)} \)
よって,以下のような簡単な数式で表現することができます.
\( P_{n} = 1 - e^{-n\psi(x)} \)
最弱リンクモデルをこのような簡単な形式で表現できるということが,\( F_{(x)} = 1-e^{-\psi(x)} \)と置いたことの目的のようです.
ここで,\( \psi(x) \)の詳細が決まってないので,具体的な数式として活用することができません.
そこで,これを以下の条件を満たすように定めます
「正で単調増加であり、かつ,\( x_{u} \)においてゼロになる。ただし、\( x_{u} \)は必ずしも零である必要はない。」
この条件を満たすものとして次式が用いられる.
\( \psi(x) = \cfrac{(x-x_{u})^{m}}{x_{0}} \)
よって,以下の累積確率密度が得られます.
\( F_{(x)} = 1 - e^{-\cfrac{(x-x_{u})^{m}}{x_{0}}} \)
これがワイブル分布の式かというと,検索して出てくるものとは形が違います.
多分,のちのち,改良されているのだと思います.
現在のワイブル分布の式では,形状パラメータ\( m \),尺度パラメータ\( \eta \),位置パラメータ\( \gamma \)というのが使われているので,書き換え方を検討します..
形状パラメータ\( m \)は,そのまま同じです.
尺度パラメータ\( \eta \)は,\( \eta^{m} = x_{0} \)
位置パラメータ\( \gamma \)は,\( \gamma = x_{u} \)
として置き換えると,
\( F_{(x)} = 1 - e^{-\cfrac{(x-\gamma)^{m}}{\eta^{m}}} = 1 - e^{-(\cfrac{x-\gamma}{\eta})^{m}} \)
と書き直すことができ,現在のワイブル分布の不信頼度の式と同じ形にすることができます.
この不信頼度(故障の累積確率密度)\( F_{(x)} \)から,信頼度\( R_{(x)} \)や確率密度\( f_{(x)} \),故障率\( \lambda_{(x)} \)が定義されていくことになっていると考えます.
信頼度:\( R_{(x)} = 1 - F_{(x)} = e^{-(\cfrac{x-\gamma}{\eta})^{m}} \)
確率密度と累積確率密度は,積分と微分の関係にあるので,\( F_{(x)} \)を微分すれば確率密度が得られます.
確率密度:\( f_{(x)} = \cfrac{d}{dx}F_{(x)} = \cfrac{m}{\eta}(\cfrac{x-\gamma}{\eta})^{m-1}e^{-(\cfrac{x-\gamma}{\eta})^{m}} \)
故障率:\( \lambda_{(x)} = \cfrac{f_{(x)}}{R_{(x)}} = \cfrac{m}{\eta}(\cfrac{x-\gamma}{\eta})^{m-1} \)
故障率\( \lambda_{(x)} \)は「値xまで壊れなかったものが,値xにおいて壊れる確率」というようなものだと思っています.
ここまでは,単にワイブル分布の式について調べただけです.
この故障率というのは,バスタブ曲線(故障率曲線)を作るのに使われます.
バスタブ曲線は下記の3つの段階から構成されます.
- 初期故障期 (Decreasing Failure Rate):時間経過とともに故障の発生率が下がる期間
- 偶発故障期 (Constant Failure Rate):偶発的に故障が発生する期間
- 摩耗故障期 (Increasing Failure Rate):時間経過とともに故障の発生率が上がる期間

DFR:\( m \)=0.2, \( \eta \)=500, \( \gamma \)=0
CFR:\( m \)=1.0, \( \eta \)=1000, \( \gamma \)=0
IFR:\( m \)=2.5, \( \eta \)=1500, \( \gamma \)=0
3本の曲線のうち,各xにおける最大値を拾っていくと,バスタブ曲線のような形状になっているのがわかるかと思います.
まずグラフそのものからわかるのは,形状パラメータ\( m \)よって曲線の傾向が大きく変化することです.
尺度パラメータ\( \eta \)は,特性寿命とも呼ばれ,累積確率密度が63.2%に達するxを示します.
これをどう使うかというと,工具寿命の要因ごとにどの故障期にあたるかが変わるため,工具寿命の判断時期をデータとして取って整理すると,故障の確率密度がわかるようになる,ということです.
例えば,刃先欠損であれば,初期故障期や偶発故障期のような傾向を示すと考えられます.
逃げ面摩耗であれば,摩耗故障期のような傾向を示すと考えられます.
整理した工具寿命のデータに対してワイブル分布で近似式を作成する方法として,ワイブルプロットという方法がありますので,それを使えば判断できると考えます.
特に,この影響を考慮したほうがいいのは刃先欠損です.
これが,刃先の欠陥や,被削材の硬度ばらつき,ばりの発生状況などによって偶発的に発生するような場合,工具寿命を延ばそうと思って刃数を増やすと逆に工具寿命が短くなります.
例えば,\( m \)=0.5, \( \eta \)=2000, \( \gamma \)=0で累積確率密度を計算し,これで形成される最弱リンクの累積確率密度を計算します.
刃数は1枚から5枚とします.

このとき,累積確率密度が63.2%となるxの値は,1999→500→222→125→80と減少します.
工具寿命がここまで極端に減少することはないと思いますが,同じように工具寿命が短くなる現象が発生するはずです.
工具寿命の要因を調査するだけなら刃先観察したほうが早いような気もしますが,こういうアプローチ方法もあるのではないでしょうか.