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最終更新日:2022年06月04日

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Taylorの寿命方程式と切削距離

Taylor(テイラー)の寿命方程式を使うと,切削速度と工具寿命(時間)の関係から,加工条件を設定できることになっています.
ざっくり言えば,切削速度を上げると,工具寿命(時間)が短くなります.
また,切削速度と工具寿命(時間)からは,工具寿命(距離),つまり,切削可能な距離が計算できることになります.
とすると,1つ疑問が出てくると思います.
切削速度を上げたとき,工具寿命(距離)は,どうなるのでしょうか.

まず,Taylorの寿命方程式を示します.

\( C = VT^{n} \)
\( C \): 定数
\( V \): 切削速度
\( T \): 工具寿命(時間)

工具寿命(距離)は次式で得られます.

\( L = VT \)
\( T \): 工具寿命(距離)

これを書き換えると次式が得られます.
\( L = VT = VT^{n} \cdot T^{1-n} \)
\( L = C \cdot T^{1-n} \)

よって,1-nの値の正負によって,工具寿命(距離)が変わります.
具体的には,
\( 1-n \gt 0 \)つまり,\( n \lt 1 \)のとき,切削速度を下げるほど,工具寿命(距離)が長くなります.
\( 1-n = 0 \)つまり,\( n = 1 \)のとき,工具寿命(距離)は一定です.
\( 1-n \lt 0 \)つまり,\( n \gt 1 \)のとき,切削速度を下げるほど,工具寿命(距離)が短くなります.

Taylorの寿命方程式の\( n \)がいくつくらいなのかを調べると0.2や0.3の値があり,大体\( n \lt 1 \)の場合が多いようでした.
このとき,極端なことを言えば,切削速度をほぼゼロに近づけると,工具寿命(時間)が長くなり,工具寿命(距離)も長くなります.
切込み量や送り量を変えていない場合,寿命までに除去可能な体積が増えることになります.
実際の加工条件は,生産性を重視する必要があるので,わざわざ切削速度をそこまで下げるようなことはしませんが,実際にこんなことが起こりうるのでしょうか.
たぶん実際には,そこまで工具寿命(距離)は長くならないと考えます.

それは,Taylorの寿命方程式は,定常摩耗での工具寿命を想定しているはずだからです.
極端な低切削速度で加工を行うと,凝着が生じやすくなったりといった別な工具寿命要因が影響してくるので,この寿命方程式には従わなくなるものと推測します.

toollife_distance_graph
図 \( 500 = VT^{0.35} \)の工具寿命方程式で得られる関係
上図は,加工技術データベースのデータを参考に,適当に作ったものです.

Taylorの寿命方程式の係数を求める方法については,こちらに記載しています.


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