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最終更新日:2021年09月09日

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フライスカッタでの1刃当たりの送り量の設定範囲

フライスカッタを用いた切削加工において1刃当たりの送り量を決めるときの考え方についてまとめます.
面粗さ,刃先丸み,刃先強度,工具摩耗の4点から考えます.

  1. 面粗さ
    フライスカッタの刃先の副切れ刃が,加工面の面粗さを決定づけます.
    この副切れ刃の長さよりも1回転当たりの送り量が小さいときは,刃振れが悪くても,1枚の刃が加工面を仕上げことができるので面粗さが良いです.
    その反対に,副切れ刃の長さよりも1回転当たりの送り量が大きいときは,面粗さが一気に悪くなる場合が多いです.
    これについてはミリングマニアックの「刃振れ解析計算機能説明」にも書いています.
    とりあえず,その関係性は次式で表せます.

    \( f_{z} \cdot Z \lt L_{e} \)

    \( L_{e} \): 副切れ刃の長さ
    \( f_{z} \): 1刃当たりの送り量
    \( Z \): 刃数

  2. 刃先丸み
    大体,刃先丸みの大きさの約2倍の実切り取り厚さをかけるようにしたほうがいいです.
    食いつき角,離脱角を考慮したときの実切り取り厚さへの影響や,アプローチ角を考慮したときの,最大実切り取り厚さで検討します.
    実切り取り厚さの変動範囲における小さいほうの値は,側面加工を実施しているときには避けられない,つまり,実切り取り厚さが刃先丸みより必ず小さくなるので,目をつぶります.
    実切り取り厚さと刃先丸みの関係性は次式で表せます.

    \( R_{e} \cdot \alpha \lt f_{z} \cdot \cos(\theta) \cdot \sin(\psi) \)

    \( R_{e} \): 刃先丸み
    \( \alpha \): 刃先丸みに対する倍数(推奨:2以上)
    \( f_{z} \): 1刃当たりの送り量
    \( \theta \): アプローチ角
    \( \psi \): 食いつき角,離脱角の範囲で定まる最大角(センタカットがあれば90度を入れる)

    「刃先丸みに対する倍数」というのは,よい表現がないので適当に表現しています.
    これが意味するところは,刃先丸みに対して2倍くらいの切り取り厚さで加工しないと,切削というより,刃先丸みで押しつぶすような加工が優位になってしまう,ということです.
    これにより,刃先丸みに近い領域で実切り取り厚さを設定すると,比切削抵抗が大きくなってしまいます.
    刃先丸みは超硬合金だと大体10μmから40μmくらい,ダイヤモンドだと顕微鏡でわからないくらい小さいです.
    詳しくは,「池田雄一郎,森田昇,山田茂,高野登,大山達雄,堀功,微小切込みにおける2次元切削現象に関する研究-切込み量に対する刃先丸みの影響-,砥粒加工学会誌,Vol.53,No.9,pp.560-565」を参照してください.

  3. 刃先強度
    1刃当たりの送り量が大きいと,単純に欠損を起こしやすいです.
    逆に,1刃当たりの送り量が小さいと,フレーキングを起こしやすいです.
    切れ刃に加わる負荷の大きさそのものの評価には,実切り取り厚みを計算します.
    ただし,実切り取り厚みだけでなく,食いつき角や離脱角によって,すくい面上のどこから工作物に接触するか,というのも欠損の発生しやすさに影響します.
    衝撃による欠損の有無は,実際に問題が起きたときに,その発生状況から判断して調整します.

  4. 工具摩耗
    工具摩耗と損傷への切削条件による対策」にも書いていますが,1刃当たりの送り量を小さくすると,工具の移動距離と比較して,実切削距離が長くなり,逃げ面摩耗が発達します.
    逆に,1刃当たりの送り量を大きくすると,すくい面上の温度が高くなり,すくい面摩耗が発達します.
    工具寿命を決定する要因についても,実際に加工したあとの刃先の摩耗状態を確認して調整します.

  5. 上記した4つの要因のうち,数式で簡単に表現できているのは,面粗さと刃先丸みの2つです.
    荒加工であって面粗さがどうでもいいときは,2つの数式のうち,刃先丸みの数式だけを検討してください.
    面粗さと刃先丸みの両方を考慮するときは,1刃当たりの送り量に一定の範囲が生じます.
    その範囲は次式で表せます.

    \(\displaystyle \cfrac{R_{e} \cdot \alpha}{\cos(\theta) \cdot \sin(\psi)} \lt f_{z} \lt \cfrac{L_{e}}{Z} \)

    この範囲内において,1刃当たりの送り量は大きい側で設定したほうがいいです.
    理由は,刃先丸みの項目で書いた,実切り取り厚さの減少による比切削抵抗の増大を防ぐためです.



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