ねじれ角による工具剛性の異方性への影響
刃数が3枚以上の場合は,工具断面における断面二次モーメントに異方性がありません.
そのため,工具全体としても剛性に異方性がない,という結果が「刃数による断面二次モーメントの異方性への影響」で得られています.
そして,刃数が1枚と2枚の場合は,断面二次モーメントは点対称で90度毎に最大値と最小値を示すという異方性を持つので,工具全体としての剛性に異方性があるかどうかは不明です.
工具全体としての剛性に異方性があるかどうかを検討するには,ねじれ角の影響を考える必要があります.
そこで,その影響について考えてみます.
まず,工具断面の断面二次モーメントを次式でモデル化して定義します.
点対称で90度毎に最大値と最小値を示すという異方性を表現できているのではないかと考えます.
\( I_{(\theta,x)} = I_{mean} \lbrace 1-\cfrac{\gamma -1 }{\gamma + 1}\cos(2\theta+\psi + \alpha) \rbrace \)
\( I_{(\theta,x)} \): 工具断面の断面二次モーメント
\( \theta \): 工具断面内での位相
\( x \): 工具先端からの軸方向距離
\( I_{mean} \): 工具断面内での断面二次モーメントの平均値
\( \gamma \): 工具断面内での断面二次モーメントの最大値と最小値の比
\( \psi \): ねじれ角による工具断面の位相の変化
\( \alpha \): 工具先端における工具断面の位相の初期値
ねじれ角によって工具断面の位相が変化する影響は,次式で定義できます.
\( \psi = \cfrac{x\tan(\phi)}{t_r} \)
\( t_r \): 工具半径
\( \phi \): ねじれ角
上式を工具断面の断面二次モーメントの式に代入し,工具断面の位相の初期値は何でもいいのでゼロとすると次式が得られます.
\( I_{(\theta,x)} = I_{mean} \lbrace 1-\cfrac{\gamma -1 }{\gamma + 1}\cos(2\theta+\cfrac{x\tan(\phi)}{t_r}) \rbrace \)
次に,片持ち梁の変位を計算するための式を用意します.
\( \cfrac{d^2 y}{d x^2} = - \cfrac{M}{EI} = - \cfrac{F x}{EI} \)
上式のIに\( I_{(\theta,x)} \)を代入して2階積分すれば工具先端での工具剛性の異方性が検証できます.
しかしながら,どうすれば数学的に解けるのかよくわからないので,数値計算で結果を求めることにします.
*同じ問題を真面目に解いている論文として「ドリルの曲げたわみとねじり応力に及ぼすドリルのねじれの影響」があります.興味があれば確認してください.
実際の工具断面の断面二次モーメントの異方性がよくわからないので,\( \gamma \)として,1.1,1.5,2,3,5をとります.
ねじれ角30度,工具径10mmとします.
計算結果としては,任意の工具長における工具先端での剛性の最大値を1としたときの,最小値を出力します.
最小値が1に近づくほど,最大値と最小値が近くなるので,異方性がない,ということを示します.
工具長の計算範囲は,ねじれが工具を10周するのに必要な工具長を最大としています.
赤い点線は,切れ刃のねじれが工具に対して「N+0.5」周したときの工具長を示します.
このとき,Nは0以上の整数です.
青い点線は,切れ刃のねじれが工具に対して「N」周したときの工具長を示します.
この段階でわかることは,10周ほどねじれても異方性がなくならない,ということです.
次に,工具径5mm,ねじれ角30度での計算結果を示します.
ねじれが何周するかを基準に,計算する工具長を決定しているため,横軸は違いますが,工具径10mmでの計算結果とグラフの形が同じです.
つまり,ねじれが何周するかを基準にすれば,工具剛性の異方性が管理できることになります.
次に,工具径10mm,ねじれ角20度での計算結果を示します.
次に,工具径10mm,ねじれ角45度での計算結果を示します.
ねじれ角を20度と45度にしても,横軸が変化するだけで,グラフの形が全く同じになることがわかります.
ねじれ角が強いほど,短い工具長で,工具先端での工具剛性の異方性を小さくできるということがわかります.
結果として,ねじれ書くによって切れ刃が何周するか,が工具先端での剛性の異方性に大きな影響を持つことはわかりました.
そこで,ねじれ角によって切れ刃が工具外周をN周するときの,工具直径と工具径との関係式を示します.
\( x = \cfrac{t_r \cdot N\pi}{\tan(\phi)} \)
\( = \cfrac{t_d \cdot N\pi }{2\tan(\phi)} \)
\( t_d \): 工具径
\( \phi \): ねじれ角
上式より,\( \cfrac{ N\pi }{2\tan(\phi) } \)に該当する数値がわかっていれば,工具径との積を取るだけで,ねじれがN周する軸方向距離がわかります.
以下に,その表を示します.
ねじれ角\( \phi \) | 切れ刃の周回数\( N \) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
0.5 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
20度 | 2.16 | 4.32 | 8.63 | 12.95 | 17.26 | 21.58 |
30度 | 1.36 | 2.72 | 5.44 | 8.16 | 10.88 | 13.60 |
45度 | 0.79 | 1.57 | 3.14 | 4.71 | 6.28 | 7.85 |
これまでに示した図と比較して考えると,ねじれが3周すると異方性の改善される利得が大きいことがわかります.
しかしながら,それに達するのに必要な軸方向長さはL/Dでいうと,20度で12.95,30度で8.16,45度で4.71となり,長さが結構必要なことがわかります.
よって,1枚刃や2枚刃において,工具先端での剛性の異方性をねじれ角で解消するというのは難しいと考えます.
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