切削温度の測定方法一覧
切削加工において測定する物理量のうち,測定が一番難しいのは切削温度だと考えます.
「切削温度」といっても,すくい面上の平均温度,すくい面上での温度分布,すくい面上の任意の点での温度,などの複数の意味があります.
このような測定位置や測定範囲の違いや,サンプリング周波数によって,採用すべき測定方法が異なります.
ここでは,切削温度の測定に用いられている手法をまとめていきます.
- 工具-被削材熱電対法
工具と被削材を一対の熱電対に見立てると,加工点は高温接点に相当するので,生じている熱起電力から切削温度が計算できる.
このとき,接触面積全体が接点になるため,切削温度は接触面全体の平均温度になる.
- 熱電対挿入法
切削工具に熱電対を仕込む場合と,工作物に仕込む場合がある.
切削工具に仕込む場合は,切削工具の内部温度になるため,すくい面上の温度はわからない.
この場合,内部での温度分布からすくい面上の温度を推定する手法と組み合わせる必要がある.
工作物内部に仕込む場合は,測定点と刃先との位置関係を,温度の測定結果と紐づけて解析する必要がある.
- すくい面上に薄膜温度センサを形成する方法
工具すくい面上のコーティング内部に薄膜熱電対を生成する手法がある.
熱電対挿入法とほぼ同じだが,すくい面により近い位置に測定点を設けることができる.
- 輻射エネルギ測定法
熱移動の三原則である伝導,対流,輻射のうちの輻射による放射される赤外線を利用して温度を測定します.
赤外線から温度を推定するため,非接触の測定方式です.
赤外線を集光し,熱電対に当てて熱起電力から温度測定を行う方式と,熱型赤外線検出素子(サーモパイル)に当てて温度測定を行う方式があります.
後者の測定方式も原理としては,前者とほぼ同じです.
赤外線が物体表面から放射されるため,表面温度しか測定できません.
サーモグラフィも,同じ原理で撮影されています.
この測定方法を使うには放射率(輻射能)による校正が必要なのですが,表面状態によって放射率は変化します.
よって,事前に放射率を調査していても,放射率の値が安定していないと使い物にはならないです.
細かい分類としては,単一波長の輻射エネルギを用いる単色温度計と,2つの波長の輻射エネルギの比を用いる2色温度計があります.
2色温度計では,2つの波長での放射率に同程度の影響を及ぼすような誤差要因,つまり,視野欠けの影響を低減させることができます.
ただし,波長によって影響度合いが異なる誤差要因,つまり,粉じんや水蒸気などは,波長によって散乱の度合いが異なるので,その影響は低減できないです.
- 赤外線写真
輻射エネルギ測定法と同様の方式で,赤外線を赤外線フィルムに当てて感光させることで温度分布を測定します.
- カロリメータ法
切削温度を水に移し,水温の変化から切削温度を計算する.
この場合は,切削温度というより切削の熱量を調べているような状態になる.
下記3状態での水温の変化を測定して熱量の分配を把握する.
- 水中に工作物を置いて切削を行う:全切削熱の測定
- 切削直後の工具を水に入れる:工具中の熱量の測定
- 切りくずを水で回収する:切りくず中の熱量の測定
ただし,「水中に工作物を置いて切削を行う」というのは,切削油剤として水を使用しているような状態になるので,切削油剤なしでの加工とは加工条件自体が違う気がします.
- 示温塗料
温度によって色が変化する塗料を用いて,温度分布を把握する.
特に形状を工夫しなければ,表面の温度分布しかわからない.
サーモカラーとも呼ぶらしい.
- 切りくずの色(干渉色,テンパカラー)
切りくずの色味は酸化膜の厚みによって定まるため,切削温度との相関関係がある.
ただし,加工環境の影響を受けるため,大雑把な温度推定にしか使えない.
「炭素鋼の干渉色」と「チタンの干渉色」については,酸化膜厚さとの関係についてページを作成しています.
- 奥島啓弍, 垣野義昭,切削加工における温度解析,精密機械,36巻,420号,(1970),pp.1-7.
- 篠塚淳, 内海幸治, Basti Ali, 帯川利之,薄膜温度センサ内蔵型切削工具による工具すくい面温度分布の測定,2005年度精密工学会春季大会
- 中山一雄,機械工学大系36 切削加工論,コロナ社,pp.64-72