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最終更新日:2022年06月02日

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トルクの計算方法による影響

切削加工において生じる負荷が,主軸の所要動力とどういう関係にあるか調べるとき,次式が出てくると思います.

\( P = \cfrac{L F}{ 1000} = \cfrac{2 \pi r S}{60} \times \cfrac{F}{ 1000} = \cfrac{2 \pi T S}{60 \times 1000} \)

\( L \): 1分当たりの移動距離 (m/min)
\( F \): 切削抵抗 (N)
\( r \): (工作物もしくは切削工具の)半径 (m)
\( P \): 所要動力 (kW)
\( T \): トルク (N・m)
\( S \): 回転数 (rpm)

この式を使うと動力からトルクが計算できるので一見便利に思えますが,加工法によっては気を付けないといけません.

何に気を付けないといけないかというと,最大トルクと平均トルクの話です.
上式で得られているトルクというのは「平均トルク」になります.
加工法と加工状態によっては,最大トルクと平均トルクが異なります.
そのため,実際の加工においては上式で得たトルクより高い値が生じる可能性があります.

どういう状況で,最大トルクと平均トルクが同じになるのかどうかをまとめると以下のようになります.


加工条件を固定して連続加工をしている場合は,旋削加工と穴あけ加工では切削負荷が理想的には変動しないはずです.
変動しないということは,最大トルクと平均トルクが同じになります.
よって,上式による変換を使っても,最大値と平均値に差がないため,問題はありません.

その一方,転削加工は常に断続加工なので,切削負荷が常に変動しており,最大トルクと平均トルクが異なります.
よって,上式による変換を使ったときは,それが平均トルクであることを自覚しておく必要があります.

なぜ計算結果が平均トルクになるのか,というのは,所要動力の計算式に原因があります.
転削加工での所要動力の計算式を示します.

\( P = \cfrac{ a_{p} \times a_{e} \times V_{f} \times K_{c}}{ 60 \times 10^6 \times \eta} \)

\( a_{p} \): 軸方向切込み深さ (mm)
\( a_{e} \): 半径方向切込み深さ (mm)
\( V_{f} \): 1分間当たりのテーブル送り速度 (mm/min)
\( K_{c} \): 比切削抵抗 (MPa)
\( \eta \): 機械効率係数

次式に,加工能率を示します.
\( M_{rr} = a_{p} \times a_{e} \times V_{f} \)

\( M_{rr} \): 材料除去能率 (mm3/min)

これらの2式を組み合わせると次式が得られます.

\( P = \cfrac{ M_{rr} \times K_{c}}{ 60 \times 10^6 \times \eta} \)

加工能率というのは単位時間当たりの材料除去体積を示します.
実際には転削加工では,材料を除去している時間と空転している時間があるわけですが,この式にはそれが反映されていません.
つまり,断続加工による変動が全く考慮されていないことになります.
これが平均トルクに変換される原因です.

それでは,最大トルクはどうやって計算するのでしょうか.
転削加工だと各刃先の切削抵抗が,回転角度ごとに変化するのでそれを考慮して計算しないといけません.
ただし,それを計算するのはめんどくさいです.

そこで,それを計算するために作ったのが「ミリングマニアック」なので,気が向いたら使ってみてください.

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