切削加工の専門書と論文のリストとオススメ
最終更新日:2023年08月19日

戻る

ツールホルダ剛性と工具剛性の比較

切削加工を実施してみて,どうも工具側の剛性が低く感じることがあります.
このとき,工具側には,主軸とツールホルダ,切削工具の3種が含まれます.
主軸は使用する工作機械を変えない限りは変えられないので,ここでは定数として捉えます.
では,ツールホルダと工具の剛性に原因があると考えたとき,どちらの剛性に主要因があるかを考えたことがあるでしょうか.

ツールホルダのほうが直径が大きいですが,全長が長い場合が多いです.
材質は鋼なので,ヤング率は約210GPaです.
一方,工具をソリッド工具と考えると,直径は小さく,全長は大きく変動します.
材質は超硬合金とすると,ヤング率は約500GPaです.
このとき,この2つの部位がどの程度の剛性を持つかを計算して比較するのは簡単ではありません.
ここでは「多段段付き片持ち梁の剛性」や「ツールホルダの剛性比較」,「エンドミルの相当直径」の内容を組み合わせて考察します.

まず,「多段段付き片持ち梁の剛性」を用いて,4段の片持ち梁の先端部でのコンプライアンスを計算します.
4段の構成は,以下のとおりとします.

  1. ツールホルダのフランジ部(固定端部)
    ツールホルダの剛性比較」により,インターフェースによる差異がないことがわかっているので,BT40を参考にします.
    よって,直径Φ63,長さ15.9mmとします.

  2. ツールホルダの工具把持側
    下表に示すBT40のツールホルダを想定します.
    ツールホルダ全長には,上記フランジ部の長さと,コレット長さの両方が含まれています.

    表 ツールホルダの工具把持側の寸法(自由端側)
    把持可能な工具直径 mm 自由端側外径 mm コレット長さ mm ツールホルダ全長 mm
    6 20 14 60,75,
    90,105,
    120,135,
    165,200
    13 35 31
    20 46 38

  3. コレット部
    上表に示した長さをコレット部としています.
    ここの部分では,鋼製のツールホルダと,超硬合金のソリッド工具の両方の断面二次モーメントの和をとっています.

  4. ソリッド工具(自由端側)
    ソリッド工具として,4枚刃の超硬合金製エンドミルを想定します.
    エンドミルの相当直径」より,相当直径は工具直径の80.9%とします.

    表 ソリッド工具の寸法(自由端側)
    工具直径 mm 相当直径 mm L/D
    6 4.854 3,5,8,10
    13 10.517
    20 16.180
上記内容をまとめると,ツールホルダ全長を8パターン変えつつ,ソリッド工具径3種でL/Dを4パターン変えて,計算を行います.
ここでも題目は剛性ですが,剛性の逆数であるコンプライアンスを計算して,計算結果をまとめます.
コンプライアンスは「荷重をかけたときの変位量」を示します.
コンプライアンスが高いと変位量が大きいので,剛性が低いということになります.

以下に,計算結果を示します.
ツールホルダと工具の剛性を比較するために,ツールホルダ固定端からソリッド工具先端までのコンプライアンスを全体コンプライアンスと定義します.
ソリッド工具単体を片持ち梁として捉えたときのコンプライアンスを工具コンプライアンスと定義します.
下図では,ツールホルダ全長ゼロでの計算結果が,工具コンプライアンスの計算結果を示します.
工具コンプライアンス/全体コンプライアンスを計算することによって,工具コンプライアンスが全体コンプライアンスに対してどのくらい支配的かを計算します.

totalcompliance_LD3
図 L/D=3での,ツールホルダ全長による全体コンプライアンスの変化


complianceratio_LD3
図 L/D=3での,全体コンプライアンスに対する工具コンプライアンスの割合

上図より,L/D=3では,工具径Φ6ではツールホルダ全長90mmで,工具径Φ13とΦ20ではツールホルダ全長120mmで,割合が50%以下に変化しています.
つまり,このツールホルダ全長以上のときは,ツールホルダのコンプライアンスが支配的になることがわかります.

totalcompliance_LD5
図 L/D=5での,ツールホルダ全長による全体コンプライアンスの変化


complianceratio_LD5
図 L/D=5での,全体コンプライアンスに対する工具コンプライアンスの割合


totalcompliance_LD8
図 L/D=8での,ツールホルダ全長による全体コンプライアンスの変化


complianceratio_LD8
図 L/D=8での,全体コンプライアンスに対する工具コンプライアンスの割合

上図より,L/D=8では,工具径Φ6でも50%以下にはならないです.
つまり,工具のコンプライアンスのほうが常に支配的になることがわかります.

totalcompliance_LD10
図 L/D=10での,ツールホルダ全長による全体コンプライアンスの変化


complianceratio_LD10
図 L/D=10での,全体コンプライアンスに対する工具コンプライアンスの割合

戻る