切削条件の決め方
切削条件といえば,数値で表すことができる条件なので,切込み深さ,切削速度,送り速度で構成されます.
切削加工を行うには,これらの数値を決定する必要があります.
このページでは,その検討手順について記載します.
まず,切込み深さを工作物から除去したい領域の形状から決めます.
そして,この切込み深さは切削工具を決定するのにも関係します.
それでは切削工具をどうやって決めるか,ということになるのですが,それは切削工具の種類ごとに問題の複雑さの程度が変わります.
第一には,除去したい領域を除去できる寸法かどうかが重要です.
次に,被削材に適した工具材質を選定します.
あとは,工具ごとの細かい形状から判断しますが,カタログから読み取れる情報は限定的です.
カタログからわかるような程度の情報は下表に示すくらいです.
あとは,ここから切れ味重視,コスト重視,切削抵抗の方向制御重視などを,切削工具諸元とのざっくりとした関係性に従って選択します.
下記記事が多少は参考になると思います.
フライス工具に関しては,旋削や穴あけ工具と比べると,使い方の要素も入ってきて複雑なので,別な記事でまとめたいと思います.
| 諸元 | 旋削工具 | フライス工具 | 穴あけ工具 |
|---|---|---|---|
| 工具形状 | ノーズR | ノーズR,刃径 | 刃径 |
| 切込み深さ | 切込み深さ | 半径方向切込み深さ 軸方向切込み深さ |
刃径(穴径) |
| 構造(ソリッド,ロウ付け,刃先交換) | ○ | ○ | ○ |
| 切込み角 | 横切れ刃角 | 切込み角 | 先端角 |
| 刃数 | ○ | ○ | |
| 工具材質 | ○ | ○ | ○ |
| その他 | 食いつき角 離脱角 |
切込み深さは工具経路の設計にも関係します.
例えば,除去したい領域でとれる切込み深さが6mmである場合,6mmで1パスで除去する方針と,3mmで2パスで除去する方針などが考えられます.
どらの案が良いか,というのは,結局はこのページの最後でも述べる切削抵抗や切削動力などを参照して判断することになります.
ですので,ここでは「暫定的に切込み深さを決める」ということになります.
残りは,切削速度と送り速度ですが,本質的には「切削速度」と「切り取り厚さ」から決定するべきです.
まず,切り取り厚さを決めます.
「フライスカッタでの1刃当たりの送り量の設定範囲」に書いたように,切り取り厚さは小さすぎても大きすぎても不都合があります.
上記ページはフライス加工を念頭に置いた文章になっていますが,旋削加工や穴あけ加工でも理屈は同じです.
よって,まずはこの切り取り厚さを切削工具のカタログの推奨範囲内になるように設定します.
このとき,旋削工具であれば横切れ刃角を考慮して,切り取り厚さを1回転当たりの送り量に変換します.
転削工具であれば切込み角(アプローチ角)と食いつき角,離脱角を考慮して切り取り厚さを1刃当たりの送り量に変換する必要があります.
次に,切削速度を決めます.
切削速度が遅いと突発欠損や凝着が発生し,早すぎると切削熱によりすくい面摩耗が促進されます.
また,回転数や切れ刃通過周波数がびびり振動を発生させます.
つまり,遅すぎても早すぎてもダメで,かつ,特定の周波数でもダメ,ということです.
旋削工具における考え方は「旋削加工におけるびびり振動の回避方法に関する考察」に詳しく書いてあります.
しかしながら,びびり振動が生じる周波数を最初から調べるのは難しいです.
よって,切削速度がカタログの推奨範囲で,できれば,固有振動数の倍振動から外した回転数を選定するのが良いです.
ここまで決めると,切込み深さ,切削速度,送り速度のすべてが暫定的に決まります.
次は,実際に決定した切削条件での加工結果を参照して,切削条件を調整する方法について考えます.
下表にざっくりとした対応関係を示します.
| 問題 | 切削速度 (回転数) |
1回転当たりの送り量(旋削,穴あけ) 1刃当たりの送り量(転削) (切り取り厚さ) |
意図 |
|---|---|---|---|
| びびり振動 | 上げるか下げる | 周波数を変えて回避 | |
| 切削抵抗・ 欠損 |
下げる | 単位切れ刃長さ当たりの負荷を低減 | |
| 擦過距離 (工具寿命) |
上げる | 工具と工作物との接触回数を減らし, 除去体積に対する擦過距離を短くして, 擦過距離に起因する摩耗(逃げ面摩耗など)を抑制 |
|
| 切削熱 (工具寿命) |
下げる | 下げる | 温度を下げて, 切削熱に起因する摩耗(すくい面摩耗など)を抑制 |
| 加工能率 (加工時間) |
上げる | 上げる | 送り速度を上げる |
| 切削動力 | 下げる | 下げる | 単位時間当たりの除去体積を低減 |
上表の関係性の理解には,下記の記事が参考になります.
実際に加工した結果に応じて,各条件を調整するわけですが,互いに相反する要素があります.
例えば,逃げ面摩耗抑制を目的として擦過距離を短くするために,1回転当たりの送り量を大きくすると,切削熱が大きくなるので,すくい面摩耗が優位になる可能性があります.
加工能率(材料除去能率)と切削動力も同様です.
「切削速度」と「切り取り厚さ」を変えても対応できない場合は,切込み深さを変更します.
切込み深さを変えても対応できない場合は,切削工具を変えます.
切削工具を変えても対応できない場合は,工作機械や治具を変えます.
企業活動として切削加工を行うときに注意が必要なのは,製造コストの観点から加工時間に目標値がある場合の,加工能率,加工時間,切削動力の関係です.
特定の切削加工工程において加工時間の目標値が決まっていると仮定します.
その切削加工工程では,除去すべき領域も決まっています.
つまり,除去体積も決まっていることになります.
ここから「除去体積/加工時間」を計算すれば,「単位時間当たりの除去体積」が決まり,これはつまりは加工能率の目標値になります.
そして,加工能率は「単位時間当たりの仕事量」にあたり,切削動力に直結しますので,切削動力も仮に計算できることになります.
この切削動力が工作機械の能力を超えていると,そもそも,その切削加工工程は目標達成が困難であるか,不可能です.
工作機械の能力に余裕のある機種に変えない限りは,切削工具や切削条件といった小手先の対応では解決できません.