フライス工具(エンドミル,カッタ)の選び方
ある切削加工工程に対して,どういったフライス工具を選定するか,というのは難しい問題です.
何が難しいかというと関係する因子が多すぎるからです.
最近であれば,切削工具メーカがネット上に工具を推奨するような機能を載せているので,それを使って選定するのが簡単だと思います.
しかしながら,なぜその工具を選定するのか,という理由がわからないです.
そこで,ここではあえて自分で選ぶときの考え方について記載します.
まず,フライス工具を選ぶときにカタログを見て,何がわかるかを整理します.
| 諸元 | エンドミル | カッタ |
|---|---|---|
| 構造 | ソリッド | 刃先交換 |
| 刃径 | ○ | ○ |
| 刃数 | ○ | ○ |
| すくい角 | △ | △ |
| ねじれ角 | ○ | |
| 片面・両面 | ○ | |
| コーナ数 | ○ | |
| 切込み角 | ○ |
まず,工具材質を被削材に合わせて検討します.
鋼であれば超硬合金やハイス,アルミであれば超硬合金(コーティングなし)やダイヤが候補になります.
ただし,これは工具の形状との組み合わせにもなるので,後ほど確認しても良いです.
次に,工作物の除去領域から軸方向切込み深さと半径方向切込み深さを仮定します.
当然ながら,その条件よりも大きな切込み深さを加工可能なフライス工具を選定するところから始まります.
軸方向切込み深さは,必要な深さよりも多少大きい程度でいいです.
これは,軸方向切込み深さが必要以上に大きい工具では,工具の突き出し長さが大きくなり,その長さの3乗に比例して,刃先の変位が大きくなるためです.
詳細は「丸棒片持ち梁の剛性と固有振動数(計算機能あり)」や「円柱の寸法が変位や剛性,強度に与える影響」に書いてあります.
では,刃径も半径方向切込み深さの必要量よりも少し大きい程度で良いかというとそうではないです.
これについては「正面フライス作業のツーリング-超硬カッタの問題点-」の図3に書いてあります.
工具破損防止の観点からは,次の1番がもっとも良く,4番が最も悪いとされています.
よって,半径方向切込み深さの2倍以上の刃径を持つフライス工具を用意してダウンカットにするのが良いということになります.
- 大きなカッタでダウンカット
*注 エンゲージ角(負)とラジアルレーキと等しくならないようにする - 小さなカッタで中心削り
- 大きなカッタで中心削り
- 大きなカッタでアップカット
刃数は,加工能率や同時切削刃数に効くことによって,切削抵抗や切削動力に影響します.
刃数が多いほど加工能率は高くできますが,その分だけ切削動力が増えかつ,同時に多くの切れ刃が切削を行うことで切削抵抗が大きくなります.
「同時切削刃数の計算方法」,や「フライス工具における切れ刃密度」を参照してください.
また,エンドミルであれば,「刃数による断面二次モーメントの異方性への影響」に示すように,刃数が工具剛性の異方性にも影響します.
仮決めしておいて,切削条件の選定まで進んだのち,刃数によってトルクや切削抵抗にどういう影響が出るかを試算してから,刃数は見直したほうがいいです.
すくい角は記載があったりなかったりで,いまいち情報源としてはあてにならないです.
もしわかれば「すくい角が切削抵抗に与える影響の定量評価」を参考にして,切削抵抗や切削動力への影響を考えてください.
エンドミルであれば,ねじれ角があり,これが大きな特徴になります.
軸方向切込み深さとねじれ角,刃径がある条件を満たすと,加工精度や工具寿命を改善することができます.
この詳細は「エンドミルによる切削加工が安定する軸方向切込み深さ」を参照してください.
また,「ねじれ角による工具剛性の異方性への影響」に示すように,ねじれ角は工具剛性の異方性にも影響します.
カッタであれば,刃先交換式チップの形状も重要な要素です.
ただし,チップブレーカの形状はカタログからでは何もわからないです.
わかるのは,片面・両面,コーナ数,切込み角くらいだと思います.
両面よりは片面のほうが切れ味が良く,コーナ数が多いよりも少ないほうが切れ味がいいです.
そのくらいの定性的な程度しかわかりません.
切込み角は除去領域で要求される角部の形状と,加工形態,剛性から決めることができます.
まず,除去領域の角部に90度の壁面が要求されていれば,切込み角は90度でなければなりません.
角部の制約がないのであれば,切込み角が小さいほうが,軸方向切込み深さに対して刃長を長く取れるので,工具寿命を長くしやすいです.
それ以外に,切込み角によって切削抵抗の系方向成分と軸方向成分の関係性が変わります.
具体的には,切込み角が小さいと切削抵抗は軸方向に向き,切込み角が大きいと切削抵抗は半径方向に向きます.
よって,工具や工作物の剛性に応じて切込み角を選択するという考え方もできます.
軸方向切込み深さが浅い場合には,この効果は切込み角ではなくコーナRが支配的になり,「丸コーナ上での切削抵抗ベクトルの変化傾向」に示すような傾向を持ちます.
ここまでで工具の選定はできているはずなので,切削条件については「切削条件の決め方と考え方」を参照してください.
切削条件を決めたあとは,切削動力やトルクを確認して,問題なさそうであれば実際に加工してみることになります.
この切削動力とトルクにおいては,フライス加工では断続切削になるため注意が必要です.
「トルクの計算方法による影響」にも書きましたが,切削動力とトルクの平均値と最大値が異なります.
そのあたりの計算に関しては,以下のページの計算機能を使って検討してください.