工具寿命のまとめ
一般社団法人日本機械学会の機械工学事典においては「切削工具が破損あるいは摩耗し使用に耐えなくなるまでの正味切削時間で,通常(分)を単位として表される.工具寿命の判定基準としては,生産現場では製品の寸法精度や仕上面粗さあるいは切りくず形状の変化などが用いられ,実験室的には逃げ面の摩耗幅やすくい面摩耗深さがある値に達した時点とされる.」と定義されています.
重要なのは「使用に耐えなくなるまで」という表現の部分です.
この「使用に耐えなくなるまで」というのを「誰」が「何の基準」でもって判断するか,によって工具寿命は決まります.
その判定基準の話は「工具寿命の判定基準」に,どういう指標で工具寿命を示すかという話が「工具寿命の長さを表す指標」に記載しています.
最終的に工具寿命に至る原因としては,「切削工具が破損あるいは摩耗し」ということで,「工具摩耗と損傷への切削条件による対策」に記載しています.
摩耗や欠損には多くの種類があるのですが,これらをかなりざっくり分類すると3種類のモードがあると考えています.
- 切削工具と工作物との擦過距離が支配的な摩耗の進行
- 切削加工による切削熱が支配的な摩耗の進行
- 切削抵抗と刃先強度の関係による欠損や破壊
切削工具と工作物が接触して切削が行われる限り,そこで擦過が生じるので,それによる逃げ面摩耗が工具寿命を決めるような感じです.
この形態の工具寿命管理に使えるのが有名なTaylorの寿命方程式であるはずです.
「Taylorの寿命方程式と切削距離」や「Taylorの寿命方程式の係数を求める方法(計算機能あり)」に記載してあります.
「切削加工による切削熱が支配的な摩耗の進行」というのは,主にすくい面摩耗(クレータ摩耗)のイメージです.
ある意味,安定的には進行するものだと考えますが,擦過距離そのものに比例するわけではないので,切削温度を制御できれば,工具寿命は延ばせるはずです.
しかしながら,「切削温度の測定方法一覧」に記載しているとおり,厳密な意味での刃先の温度測定というのは非常に難しいです.
その代わり,刃先で発生する熱量を推定する方法として「切削熱の推定」や「Jaegerの移動熱源」が使えるはずです.
刃先で発生する熱量を下げることができれば,切削温度も下がるだろう,という対策の取り方です.
また,切削温度というのは.熱の発生と冷却の関係性で決まるわけなので,切削油剤の検討も重要です.
それには「切削油剤と供給方法」,「切削油剤の供給に関係する計算」,「切削油剤の供給に関係する計算2」,「凝着と切削油剤の冷却性能における熱伝達率の共通点」が使えると考えます.
ただし,フライス加工では切削油剤を使うと熱応力が生じ,熱き裂が発生してしまう場合もあるため,注意が必要です.
熱き裂に関係する話は「熱き裂と工具径」に記載してあります.
また,旋削や転削,穴加工においては,刃先近傍での加工環境が異なるので,被削材に対して都合の良い温度場を形成するための切削速度の条件が異なるという考察について「切削速度と加工形態」に記載してあります.
「切削抵抗と刃先強度の関係による欠損や破壊」というのは,突発的に発生する事象のイメージです.
「インサート形状と強度の関係」にしめしたような考察をもとに刃先強度を高めるか,切削抵抗を下げることが対策として考えられます.
突発的な事象というのは,ある確率分布に従うことを想定できるため,「ワイブル分布と工具寿命」に記載したように,定常摩耗であれば刃数を増やすと工具寿命が延びるのですが,欠損対策として刃数を増やすと工具寿命が短くなる場合がありますので注意が必要です.